08

名前が六本木にあるホテルに私物を置いてあると言うので阿伏兎と名前はタクシーを乗り継いでそのホテルに来ていた。着替えを済ました名前は作戦会議ということで神威をどう救出するか考えることになった。

「港に俺達の師団の船が来ることになっていたんだが、あてにならないな。追っ手を避けて身を潜めているらしい。恐らく横浜と池袋のチャイナタウンだろう。」
「まず神威さんがどういう状況に居るかですよね。今、知り合いに連絡を取って発信源を見てもらっています」
「あと武器だ。ショットガンが無いのはきついな」
「それもどこかで手に入れましょう。大丈夫です。伝手はあります。拳銃は持っていますよね?」
「あぁ」
「ピッキングツールは持っていますし……お金も大丈夫そう……地図もインターネットで出せるし……」

武器は服部から仕入れられるだろう。情報は猿飛から手に入れられるはず。
もうすでに猿飛には連絡を入れてある。春雨についての情報と鬼兵隊についての情報。東京湾付近の現状。他の仕事を抱えている彼女にこの量の仕事を頼むのは無謀だが、猿飛なら出来ると信じている。優先順位を上げてもらう代わりに巨額の報酬と銀時の写真を約束した。口止め料も忘れない。
彼女から連絡が来るまで酷く長く感じる時間を阿伏兎とホテルの中で過ごした。彼も彼で情報を集めているらしい。週十分おきに阿伏兎の携帯は着信音を響かせていた。名前も黒いスマートフォンを握りしめて猿飛からの着信を待つ。

「……もしもし?」

名前のスマートフォンが鳴ったのは夕方五時を過ぎた所だった。阿伏兎と名前の視線が混じり、名前は応答ボタンを押した。


■ ■ ■


手足を金属製の枷で拘束され、牢に入れられた神威は自分の前で足を止めた男の顔を眺めた。間違いない。高杉晋助だ。本来ならば、自分が殺すはずだった男。この男の策略によって神威は今、この牢屋に居る。

「やぁ。何の用だい?」
「お前さんの部下の大男と取引相手の女はぴんぴんしてるぜ」
「そりゃよかった。特に名前が無事で何よりだヨ。で、彼らも始末するつもりかい?」
「いや……阿呆はお前さえ消えればとりあえず満足みたいだからな。中国で公開処刑だそうだ」
「へェ……ってことは三日後かな?」
「ああ。この船は今晩、日本を発つそうだ」

スーツのポケットに片手を突っ込んだ高杉は神威の怪我の具合を目視した。勾狼と銃撃戦を繰り広げたものの銃弾での傷はほぼない。神威が倒れたのは麻酔ガスのせいだ。ピンピンしている神威に薄笑いを浮かべた。高杉の右手には神威が持っていた名前と鬼兵隊の資料がある。春雨のネットワークを使っているだけ情報は豊富だった。だが名前の資料に高杉との関係は書いていない。

「鳳仙ってのは誰だ?」
「元春雨第七師団長だヨ。俺の前任。隠居して日本で暮らしてた」
「お前と名前は面識があったのか?」
「いや、今回が初めてさ。名前を取引に引きずりだせたのも鳳仙と俺が師弟関係だったからだヨ。鳳仙の話題を出せば名前は食いつくからネ」

両親は居ないと言っていた名前を高杉は思い出した。母は名前が小学生の時に亡くなり、父も高校卒業後すぐに死んだと言っていた。名前はあまり自分の事を話したがらない。高杉も無理に聞き出そうとしなかった。お互いの深いところまで探り合わなかったため、こんな事態になっている。胸ポケットからエクスタシーの錠剤を取り出した高杉はコインを回す要領で神威の足元に弾いた。

「……名前に会ったんだ」
「名前は俺が鬼兵隊を率いてるって知らなかったし、俺もあいつが薬を裁いてるって知らなかった。お互い知らずにあの場で鉛玉ぶち込んでおいて、実は同居人だったって言う笑えないオチ付きだ」
「ははっ!それは傑作だネ……あれはいい女だ。鳳仙が鍛えただけあって身体能力も高いし、賢い。こんな所で朽ちさせるのはもったいないと思わないかい?」
「その心配はねェさ」
「彼女を鬼兵隊に引き込む気?名前、頷くかな?」
「……」

名前はマンションで高杉を殺そうとしている。正体を知られた以上消すという判断は正しいが、その容赦なさに笑いそうだ。だが、悪くない。今、高杉と名前に必要なのは落ち着いて話し合う時間だ。

「アンタも気をつけなよ。春雨なんて利用するだけ利用して用済みとあれば簡単にポイ捨てする組織だ。目の前にいる俺がいい例デショ」
「確かにな。ご忠告いたみいるぜ」
「ねェ……」

内緒話を持ちかけるように小さな声で神威が高杉に話しかける。細めた青い目が暗い牢屋で浮いていた。

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