04

ふんふんと鼻歌を歌いながら神威はシグSG552の安全装置を外した。襲撃者達は非常口と一般階段、エレベーターを使って移動している。一般階段のすぐ横にエレベーターがあることを考えると二方向から来ているということだ。メンバーの内、五人前後が各階の部屋を一つ一つチェックし、残りが階段を上ってきているのだろう。五人前後を一塊ととらえればいい。名前達と鉢合わせになるのは恐らく七階あたりだろう。

「散弾二発は残しておいてネ」
「了解」

八階の廊下で神威は名前にそう言った。五階についた際、ベランダに出るためのドアを吹っ飛ばすのに使うのだろう。一発は予備。マーベリックを肩にかけた名前はスカートの下からグロック18Cを取り出した。コンペンセイターがついているため威力は落ちるが、反動を考えると女性の名前にはうってつけだ。秒間20発のフルオート機能を持つマシンピストル。名前はスライド左後方にあるレバーをセミオートに切り替えた。

「いい銃だな」
「ありがとう。銃が良くても使い手は微妙だからよろしくお願いしますね」

サイレンサーをつけた神威が発砲した。階段の踊り場に出てくる連中を確実に仕留めていく。その腕前に名前は頼りがいを覚えた。弾倉を素早く入れ替える姿を見ても戦い慣れているのだろう。トランクを持った阿伏兎はまだ発砲していない。名前は神威と阿伏兎の間に挟まれるようにして歩いていた。七階から八階に上がろうとしていた連中を片づけた神威は阿伏兎を振りかえる。

「挟まれると厄介だな…」
「まだ七階には来てないみたいだけど。非常口からくる連中をどう対処するか…二手に分かれるかい?」
「じゃあ阿伏兎と名前が先に降りることにする?俺は派手に暴れるヨ」
「あっ、待って」

阿伏兎と神威の会話に名前が水を差した。アドレナリンが大量に出ているらしい神威は頬を少し赤らめて興奮を表情に出している。その姿に少し怖気付いたが、名前は防火扉を指差した。
阿伏兎が防火扉を閉めると、胸ポケットに入れていたボールペンを解体して、本体を僅かに開けた扉と扉の間に差し込んだ。防火扉が開けられると、ボールペンが落下するような仕組みになる。ついで、ボールペンの中に仕込まれていた白にちかい灰色の粉末をドアの前に盛り塩のように置いた。その上に弾丸の火薬を撒く。即席の爆弾だ。

「何だそりゃ?」
「ニトログリセンですよ」

防火扉を押し開けるとボールペンが落下し、ニトログリセンに摩擦を起こす。火薬も手伝ってなかなかの威力になるだろう。名前のトラップが仕掛け終わるまで僅か三十秒弱。慣れている。先を進む神威後に続き、七階のフロアに足を踏み入れた時、阿伏兎の直ぐ脇を弾丸が掠めた。前方に六人。壁の陰に身を潜ませつつ一人一人仕留めていくうちに六階から上がってきた連中も加わり戦況は少し悪化した。

「手榴弾とか持ってないの?」
「残念ながら」
「長距離はきついねこりゃ。あちらさんライフルまで持ってきてるよ」
「…阿伏兎、ちょっと場所変わってヨ」

神威が頭を引っ込めて阿伏兎がその代わりに応戦した。名前は彼の持っていたトランクを押し付けられるような形になる。神威は消火器を手にしていた。インパルス消火器だ。数十メートル先まで水が届き、威力も強いことで有名な消化器。威力は強いが、ただその反動も強い。素手で扱えば反動で痣ができるだろう。水を砲身に注入した神威は全長一メートル、口径三十センチほどの消火器を構え、軽々と身を躍らせた。いきなり出てきた神威に標準をあわせるものの、彼の放った水によって倒れ込む。車に向かってこの消火器を発射すれば簡単にボディが凹むような代物なのだ。生身で直撃はいいダメージになる。

「降りるヨ」

倒れた敵にとどめをさし、完全に息の根を止めた神威は名前に向かってそう言った。目の前でバタバタと人が死んでいるのにこれといった動揺もしない。日本に暮らしているとこういった殺傷沙汰とは無縁そうなのに。神威たちが六階に降りるときにも防火扉に先ほどと同じ仕掛けを施した。非常口からまわっている人間が騒ぎを聞きつけて降りてきたとき用に、だ。

「名前、いっそ俺達と来ない?君なかなか腕が立つみたいだし」
「遠慮させていただきます」
「それは残念」

頭上で爆音が響いた。音の大きさからして七階に仕掛けたものだろう。顔を見合わせて、笑う。六階に降りた名前達の前には十数人の影。待ち伏せされていたらしい。ひょこっと神威が階段の影から顔を覗かせるとすかさず魂が飛んでくる。神威は二人に向かって舌を出した。

「勾狼の旦那がお出ましだ」
「ついに出てきやがったか……どうするよ団長」
「うーん。名前、マーベリックぶっ放そうか」
「いいですけど、援護してくださいよ」

阿伏兎の持っていたトランクを盾にすることになった。拳銃ぐらいならば余裕で防げる。名前が散弾銃を構えると同時に阿伏兎がトランクを押し出し、銃弾から名前の身を守る態勢に入る。神威は階段の手すりから身を乗り出すようにして援護に当たった。

まさか麻薬の受け渡しにショットガンを持ってくるとは思っていなかったらしく春雨の間に動揺が走った。素早く身を伏せ、死角となる場所に身を転がした勾狼を除いた敵はショットガンの威力に倒れていく。高性能の耳栓をしていたものの音と衝撃に名前は顔を顰めた。神威が口笛を吹いた。予想以上の拡散弾だった。

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