09


後悔してないといえば嘘になるが後悔しているか、と聞かれればノーとは答えられない。その一因として、婚約祝いで借金がチャラになった事をあげておこう。

マダラさんからの着信を伝える携帯を枕元に、イタチに抱かれて遂にはその場で結婚の承諾までしてしまった自分を端からみれば馬鹿だと思う。というより馬鹿だ。死ねばいい。今まで愛を拒みながら、でも最後の砦、きっとこの人は私を裏切らないと思い信じて築きあげたガラス細工の城を無碍もなく、しかも目の前で舞台からはたき落とした男に縋るしかないなんて、笑いすぎて過呼吸で死ねる。そんな私にイタチは喜んで人工呼吸を施しそうだ。一方で、崩れ落ちたこの心を分かち合ってくれる人がイタチ意外いないと言うのも事実だから、愛してみようと思った。愛されてみようと思った。

ブラインドから通した朝日が良質な布団にシマウマ模様を形成するなかで、私を組み敷いて愛を貪るイタチに情が湧いたといえばそれまでだろう。首筋から落ちる汗さえも私の胸を刺激する。嘗てお金のためだと言い、不特定多数の男と枕をともにしたこの身体も、何の障害にもならないと言い切ったイタチ。

だが言葉だけでは信用ならないと同時に言われた事で、望むだけ身体を差し出すことにした。決してイタチを拒むまい、と。耳を甘噛みしながら息を吹きかけてきたり、甘い声で名前を囁いてくれるのも、もうイタチ以外許されないのだ。いやらしく太ももをなで上げて此方の反応を見るイタチが目を細めた。全身全霊で愛を捧ぐといったその言葉は信じてもいいらしい。揺さぶられながら思う。

「これで貴女はオレだけに愛されることになりましたね」

流されて、そう悪くいえば失恋の心中を掻き回されて漬け込まれて成立した婚約の中流されて、承諾書に判を押した時に言われた言葉を思い出した。巨額の借金を抱える両親も兄弟もいない孤独な女。世間から見ればそんな女を受け入れ愛せるイタチは何なんだろうか。

「だから、何を考えているんです?」
「ダメっ…っぁん」

片足を持ち上げ深く差し込まれ、喉を晒せば噛みつかれる。はむはむと柔らかに噛まれる事もあれば思いっきり歯を立てられることもあった。その度に、あぁ私の全てはこの人に握られているんだ、という被征服欲が湧く。断じてマゾヒストではない。

途切れ途切れの声で彼が好きだと伝えれば機嫌が直ったのか優しいキスを唇に数回落とす。そしてより密着しようとする身体、深く沈む腰。高く上がる嬌声。腕を伸ばしてイタチの首にしがみつき、耳元で喘げばイタチが反応するのが分かった。お返し、とばかりに締め付ければ低く呻く。このイタチの顔が好きだった。キスを強請れば舌の絡み合う熱烈で卑猥な口づけが落とされる。

ぶっ飛びそうだった。

■ ■ ■

しばらく微睡んだ後、まだ隣で眠るイタチを起こさないようにそっとベッドを抜
け出す。時計を見れば昼をとおに過ぎていた。だが、朝食も昼食も食べていないためお腹が空いている。イタチも空腹ですぐに起きるだろう。とりあえず体にバスローブを纏い、キッチンに行けば昨日の夜に仕込んでおいたチキンのスープを見つけだした。軽く味を整えて煮込めばすぐできるだろう。それに、トーストでいいか。

「イタチ、起きて…」

手早く昼食の用意をしてイタチを起こしに行けば寝起きで甘えてきた。普段は見ない彼のそんな態度に心がくすぐられる。たぶん、これも愛なのだろう。

「…イタチ?今、あたし少しだけ幸せよ」

そっと寝ぼけ眼のイタチに口づけを一つ、落とした。


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