08


「お水です」

部屋につくなりダブルベッドに座らせられて備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出したイタチは蓋を開けて名前に差し出した。震える手でペットボトルを口に運ぶ名前を見てイタチは薬の量を間違えたかと内心舌打ちした。名前をみれば目を片腕で覆い、ぐったりしている。

「さっきのどういう事なの…」
「そのまんまですよ、マダラ叔父さんに頼んであなたに見合いを申しこんだんです」
「なんでそんな事を…?」
「あなたに正面から告白したら玉砕しましたから」
「え…」

記憶を辿ろうとしても絶え間ない吐き気がそれを邪魔をした。真っ暗な室内が嫌な雰囲気を醸し出している。

「あなたとマダラ叔父さんの関係があそこまで厄介だとは思わなかったんですけどね」
「…?」
「マダラさんが好きなんでしょう?」

イタチがベッドに腰掛けたことで、二人分の体重を受けたベッドが軋んだ。いやな音がする。

「でも残念。マダラさんは隠しているようですが、奥さんもお子さんもいますよ、あの人。あなたを愛人にしようか悩んでいたようですけどね」
「…」

ぎゅぅぅうと胸がしめつけられるような感覚がして息苦しくなった。今まで必死に目をそらしていた部分をこの青年は容赦なく引きずり出してしまった。会話のはしはしから何となくそんな気もしていたけれど。だけど思い込みでいたかった、勘違いだと思いたかった。そんな小さな我が儘もイタチは易々と握り潰してしまったのだ。

「泣かないでください」

静かに伝う涙をイタチが舐めあげて目尻にキスを落とす。泣かせた原因が一体何を言うのか。ひっくひっくと言う嗚咽が静かな部屋に響いた。

「オレがいますから」
「…」

口を食いしばって嗚咽を出さないようにすれば追い討ちをかけるようにイタチが言う。本当に泣き止ませたいのなら何も言わないで欲しかったのに。また熱い涙が止まらなくなる。慰めているであろう言葉はかえって名前の胸を抉りつづけているのを知っているくせにイタチはなおも止めようとしない。

「五年越しの恋ですからね、」

(私は十年越しの恋だったのに…!)

「最初にオレが道案内したの覚えてますか?そういえば、あの時と同じドレス着てますね。確かあれが高校三年の時で、オレが大学二年の時にサスケの家庭教師としてあなたが来ましたよね?ははっ、あの時は驚きました」

よしよし、と頭を撫でながら譫言のように囁くイタチは立派なスーツが名前の涙で台無しになっても頓着しないらしい。世間一般から見ていっくら高いスーツもイタチにとっては大したことないのだろう。起業家になった、と言っていた気がする。マダラさんと一緒じゃないか。

「落ち着きましたか?」

名前の嗚咽が収まると名前を支える手と反対の手でシュルリとネクタイを取った。
よく聞くその音に名前は小さく身を縮めて怯える気配を見せた。嫌、嫌、マダラさん助けて、なんて往生際がわるい名前に対してて苛立ちと加虐心がそそられる。

「オレは本当に愛してるんです」

この人がマダラを本当に敬愛しているのは遠目で見ても分かった。マダラもこの人を愛しているのだという事を悟るのも簡単だった。
借金のことや両親のことを聞いたのはマダラからだったから。心からなんとかしてあげよう、と思っているのも伝わってきたけれど、妻子持ちの愛人になんてさせたくない。ならばいっそ自分が奪ってしまえばいいと思ってしまったのは普通だろう。みすみす不幸にするぐらいならば自分が幸せにしてみせる。その自信はイタチにあった。

「先生、オレは二番目でも構いませんよ」
「…」
「結婚してください」


最低な、だけど何よりも心にグッとくるプロポーズだった。

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