07


パーティーが終わり、マダラさんにロビーで一時間ほど、待つように言われた。盛大に飾られた花瓶を目の前に設置されたソファーに身を沈めて溜め息を出せば、ボーイが気をつかってコーヒーを出してくれる。現在、二十三時。眠気覚ましにという気遣いも含まれているのだろう。机に置かれた大輪のバラを眺めながらコーヒーを啜れば、安っぽい缶コーヒーとは天と地ほどの芳香が鼻についた。あと二時間語にはいつものボロアパートにいるのかと考えると帰りたくなくなった。

「……先生…?」

聞き慣れた声がした気がするが気のせいだろう。振り返らずにコーヒーをもう一口啜った。

「名前先生?」

スーツ姿の、彼の姿が視界に写った。ゆっくり振り返る。

「…イタチくん?」
「本当に名前先生ですか。さっき見かけた時は驚きましたよ」

ドサリと向かいのソファーに座り足を組む姿がマダラさんと被った。

「あ…」
「どうしたんです?」
「うちはくん…」
「?」

イタチくんもうちはと言う名字だった事をいまさら思い出した。マダラさんの親戚なのかもしれない。だからここにいるのか。でも何故、

「先生は何故ここにいるんですか?」
「知り合いの付き添いで…」
「今日の先生、いつもに増して綺麗ですよ」
「ありがとう…」

居心地が悪くて足がムズムズする。品定めをするようなイタチの視線がそれに拍車をかけた。

「マダラさんの付き添いで?」
「あ、うん…」
「不思議そうな顔をなさいますね、オレも会場にいましたから」

そっか、と言ってコーヒーカップに口つければ口紅に滲んでしまった。化粧直しと称してこの場から立ち去ってしまおうか、なんて邪な考えが頭をよぎる。

「マダラさんからお見合いの話聞きました?」
「…」
「あれ、相手オレですよ」

頭を思いっきり金槌で打たれたような、というか取り立ての男に殴られ頭をぶつけた時のような感覚が頭蓋骨の中から響いた。嫌な予感がする。

「冗談でしょう…」
「まさか」

チラリと腕時計を見たイタチが名前を見てニヤッと笑った。今まで見たことのない表情で、おどけているような表情なくせに目が全く笑っていないという恐怖に身体が固くなる。いつもなら客にするように適当にあしらえるはずなのにイタチの雰囲気がそれを許さない。不意に眩暈がしてきて思わず額に手をやった。イタチが立ち上がり名前の腰をとって立たせる。

「連れの具合が悪いので部屋をとらせていただけますか?」

だめ、マダラさんを待たなきゃいけないの。と言いたかったがぐるぐる回る視界とキーンと響く耳鳴りのせいで口を開けもしなかった。


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