06


立食式のパーティー。だが、主役であるマダラさんは食べる暇などなく次から次にくるお客様の対応で精一杯だろう。そんなマダラさんに対して私の仕事は近づいてくるお客様の情報をさっと告げること。相手の名前を此方から出すことでその人に自分は重要だと思われている、と思わせることができるのだと教えられた。

「暁銀行専務の長門さんです。既婚者、好きな食べ物は焼き魚と鍋物。血液型A型です」
「あぁ…初めまして長門さん」
「初めましてうちはさん。随分豪勢なパーティーですね、驚きました」

その隙にボーイからシャンパンを受け取り、さり気なく長門さんに渡す。相手の嗜好もリストの中に入っていた。こんな煌びやかな社交界に自分が立っていることも信じられないが、その中で注目を浴びていることも信じられない。一流会社の社長様に「失礼ですが、お名前は?」なーんて丁寧語で話掛けられていると思うだけで笑ってしまう。たぶん本心から。

「…名前、疲れたら休んでも構わないぞ」
「大丈夫ですよ」
「…オレが疲れた、少し風にあたりに行くか」
「はい…」

こういうささやかな心遣いが自然とできてしまうのだから本当に素晴らしい人だと思う。さり気なくエスコートをしてくれる仕草を見ても、この人と私じゃあ、見ている世界が違うのだと実感する。いくら外見を煌びやかに飾り立てても意味がないのだと、思い知らされる。

自分が、少し惨めになる。

「慣れない仕事をさせて済まないな」
「いえ、楽しいです…こういうお仕事も」

クラブのお客様もチラホラいて、私の姿を見て驚いていることで優越感に浸った。その隣に妻子がいることでよりいっそう。

「そうだ名前…」
「なんですか?」
「お前に頼みがあるのだが…」

珍しく歯切れの悪いマダラさんを怪訝な顔で覗きこむ。

廊下の開け放った窓から入りこんた風が髪を揺らした。軽く巻いた髪が崩れぬように抑えればマダラさんが位置のズレたネックレスを直してくれる。胸元にマダラさんの手が伸びたことで心臓がドクンと期待するように鼓動する。

「…見合い話があるんだ」

思わず瞠目した。

「もちろんオレはお前の父親でもなんでもないから、断ってくれて構わない」
「いえ…」

受けてくれるのか、と言ったマダラさんに頷けば、それはよかったと言われた。初めての頼みに嬉しい思いを抱く半分複雑な思いにもなる。見合いということはもれなく結婚というオプションがついてきてしまうだろう。マダラさんに見合い話を持ってこれる人物なんて私から見れば天井人であり結婚なんて成立するはずもない。話の持ち出し方からしても先ほど私が席を外した時にでも持ち掛けられたのだろう。

ここにいるのは企業の上役とその家族。そういえばマダラさんに家族はいないのだろうか。見たことも聞いたこともないが、左手に指輪はついていないから結婚はしていないのだろうと勝手に判断した。

「そろそろ戻るか」
「はい」

再び背中に手を回されて会場に戻った。会場はあまりにも眩しくて、やっぱり私には不釣り合いだった。

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