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クリスマスイヴの攘夷は開店時間を早めて営業していた。夕方十六時から二十二時まで。アフターは基本無し。いつにもまして売り上げはよく、シャンパンコールが数分置きに出るような盛況ぶりだった。VIPはもちろん一般客も多い。会計を担当する志村は毎年のことながら目玉がでそうな額に涙がでそうになった。銀時と競り合うように高杉がドンペリを落とす。毎月NO1、NO2争いをしているだけあって苛烈な戦いだった。その他のホストを大きく引きはがしていく売上。きゃあきゃあと黄色い声をあげた客の満足そうな顔。

「ピンドン二本」
「晋助くん素敵―!!」
「口移しで飲ませてやらァ」

その言葉に一層の歓声があがった。さらにシャンパンタワー。ミラーボールが赤い光を放ち、店が歓声に沸く。負けじと銀時も上着を脱いでシャンパンタワーを入れた。VIP同士の苛烈すぎる戦い。見初めた男をNO1にさせたいとの思いが痛いほど伝わってきた。VIPタイムが終わると疲れきったような銀時が猿飛の席に着く。

「お疲れ様」
「悪ィ……飲み過ぎた」
「はい、お水」
「お前もクリスマスに俺なんかに会いにきてんじゃねーよ。大学でもっといい男いるだろ」
「私は銀さんがいいの」
「変わったやつだな……ほれ、かんぱーい」

未成年だから、とジュースで乾杯した。学生なのにホストクラブに入り浸るなんてお金は大丈夫なのだろうか、と前に聞いたことがあったが、彼女の実家はなかなかのお金持ちらしい。猿飛との話には名前の名前がちょくちょく出る。本当に仲がいいようだ。

「そういえばあの子、最近変な人が家の近くにいるって言ってた」
「ストーカーか?」
「ううん。女の人らしいんだけど」
「近所の人じゃないのか?」
「それはわからないけど、前、名前のポストのなか覗いてたのを見たって」
「怖いな」

銀時もストーカーもどきを持つ身である。店から家までつけられたこともあるし、毎日差出人住所なしのラブレターがポストの中に入れられていたこともある。酷い時には家に盗聴器が仕掛けられていた。それがあってからはもっとセキュリティが良い家に引っ越したが。

「お前も気をつけろよ」
「はーい。もう銀さんも気をつけてね!」
「お前も毎朝モーニングコール寄越してくるストーカーみたいなもんだろ」
「えー」

反論はできない猿飛だった。彼女と腕を組み、下まで送る。

「今日のアフターは?」
「今日は全員アフター無しだ」
「……彼女さん?」
「俺は恋人は作らねー主義だ」
「そっか」
「おう。気を付けて帰れよ」

ばいばいっと手を振り、新宿駅へと向かった。駅にはカップルばかり。先ほどまでの幸せな気分は外の寒さに当てられて一気にしぼんでしまったかのようだ。銀時と同じベットでクリスマスを迎えたかった。そっとマフをかき寄せ、家に向かう。相手にされていなくても、やぱり銀時が好きだ。


■ ■ ■


イヴの前日の夜、名前は神威と電話をしていた。改めて断ろうと思ったのだ。あと、恋人がいることも伝えようと思って。そう神威に言うと、阿伏兎から聞き出したというではないか。呆れた。知っていてあんなことを言ったのか。

「冗談じゃなかったのにネ」
「馬鹿神威」
「今度ちゃんと話しようよ」
「お酒はなしだよ」
「いいヨ」

じゃあね、と電話を切る。神威の真意がわからない。結局私はからかわれただけなのか。そう思うとまた涙が出そうだった。もやもやした気分を振り払い、明日に気持ちをはぜる。二十二時半に高杉と新宿で待ち合わせ。ディナーとホテルの予約はしてくれたそうだ。

イヴの夕方、名前は何を来ていくか迷っていた。ドレスっぽいワンピースにしよう。色は…黒では地味だろうか。下着はもう決めている。もしかしたら、だから。結局黒いワンピースドレスにした。シャワーを浴びて、いつもより念入りに身支度をする。金色のアイシャドーを薄く塗り、鏡に向かって笑って見せた。ピンクのグロス。淡いチーク。彼の周りの女の人にはかなわないかもしれないが、背一杯の背伸びだ。二十二時少し前に名前は家を出た。今日はあの変な女の人はいない。猿飛にしか相談していないが、最近家の前に女性が立っているのだ。朝もいるし、夜もいる。なるべく目を合わせないようにしてきたが、気味の悪さは消えない。駅までつけられたこともあった。

「寒くなかったか?」
「はい」
「乗れ」

新宿の西口から少し歩いたところで高杉の運転する車に乗った。さっきまで働いていたなら飲酒運転じゃないか?と疑問を抱いたが、深く考えないようにした。助手席から町のイルミネーションを眺める。

「フレンチでいいか?」
「はい!」

地下駐車場に止めた車から降ろされ、一緒にホテルのレストランに向かった。高そうなホテル。一か月前から予約を取っていたことを名前は知らない。赤い絨毯をゆっくり進み、案内されたのは個室だった。これは高杉の客対策。コース料理だからメニューは置いていない。落ち着かない名前の様子に笑った。

「まだ慣れねェのか」
「きっと一生なれませんよ……」
「飲み物だけ選べ」
「えっと、グランベリージュースで」

直ぐに運ばれてきたグラスで乾杯をした。なるべく飲まないよう抑えてきた高杉だが、すこしだけ酔いが回っている。細い腕輪をした名前の手に触りたくなった。つややかに光る唇と普段より広く開いた胸元。きっとあの小さめな全身鏡でいろいろな服を合わせてきたのだろう。部屋は散らかっているに違いない。にやにやと笑った高杉に名前は顔を赤くした。サーモンのマリネとフォアグラのクレームブリュレ―が前菜できた後はメインの子羊のローストがきた。何の肉がわからないらしい名前だがおいしそうに食べている。食べ終わった後に子羊だと教えてやれば目を丸くしていた。こんど羊の人形でも送ってやろう。デザートのケーキも食べ終わり。コーヒーを啜る。緊張もだいぶほぐれてきた名前が最近大学であったことをぺらぺらと話し始めた。相槌を打つ高杉。

「続きは部屋で聞いてやらァ」

その言葉に名前は赤面した。夜景の映えるクイーンベットをみた名前は卒倒しそうになる。いじらしい彼女の首に高杉はネックレスを掛けた。きらりと光るルビー。喜びを言葉でなく抱き着くという行為で表した名前。押し倒される形になった高杉は面食らったものの抱きしめかえした。

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