お風呂から帰ってきたイタチさんは私がまだ起きていることに対して眉間に皺を寄せた。てっきり寝ていると思ったのだろう。
「明日は任務でしょう。早く寝てください」
「イタチさんは聞きましたか?」
「黄泉さんにはしっかり釘を差しておきましたから」
「違う!大蛇丸様のことです」
私が大声を上げたことに目を見張り、落ち着くように合図する。確かに私は今、興奮しているが言わなければいけないのだ。イタチさんを大蛇丸様と二人っきりにしてはいけない。
「大蛇丸様はイタチさんの身体を狙っているんですよ」
「そうですか」
「じゃあ一緒の任務なんて止めてください」
「あなたは俺が大蛇丸に負けると思っているんですか?」
駄目なんです、駄目なんですよ。私にとっては大蛇丸様もイタチさんも同じくらい大事なんです。昔からご一緒させていただいてる大蛇丸様にいらない、と言われても私は大蛇丸様を捨てることなんかできない。イタチさんは何も言わないけれど、私が完全にお荷物になっているのは分かっている。私に選ぶ権利なんか無いからこそ、架空の選択肢が迫ってくるのが耐えられない。きっとイタチさんも分かっているだろう。
「我が儘なんです。私、大蛇丸様もイタチさんも欲しいんです」
私を見るイタチさんの視線が気まずくて目を閉じた。やはり選ばなければならないのだ。私の選択が二人に何の影響を与えなくても、選ばなければならない。もしも私が黄泉と任務に行っている間に全てが終わっていたら後悔する。そして無責任に相手を恨むだろう。そんな責任転換は嫌だ。会話を諦めたのか、イタチさんが寝台に入ってくる気配がして、私も奥の方へ入った。私に背をむけるイタチさんの背中に頬と手を当てて、トクン、トクンと落ち着く心音に耳を傾けた。
「身を切るような判断も時には必要なんです…忍なら」
ポツリとイタチさんが言った言葉はふわふわしていて掴みきれなかった。私は弱いから誰かに依存していなければ生きていけない。ならばいっそ自害してしまおうか。私の生存意義って何だろう。何となく私が生きていることを感じたくてイタチさんにすり寄って温もりを求めた。風呂上がりのせいか体温は高く、柔らかい匂いがした。額をぐりぐり押し付けると痛かったのかイタチさんが寝返りを打って私を見る。
「庇護欲がそそられますね」
「……」
昔よく大蛇丸様がしてくれたように抱きしめられながら髪を梳かれる。イタチさんは、私にとって大蛇丸様の代わりだと分かっていてこんなにも優しくしてくれるのだろうか。結局明日どうするか決まらないまま目を閉じた。だいぶ夜更かししてしまったようだ。