もぞもぞもぞ、とウサギが身じろぎして私の腕から出ていったせいで目が覚めた。身体を丸めるようにして寝たせいで関節の様々な部位が痛く、伸びをすると全身から凄まじい音がする。帰らなきゃ、でも気がすすまない。あー、だとかうー、だとか繰り返しているうちにウサギのもぞもぞ加減が段々過激になっていった。ちょちょ、引っ掻かないでよ痛い!腕を見ると見事な引っ掻き傷が出来ていた。
「あっ、待って!」
テテテ、と走りだしてしまうウサギを追って私も走り出した。ぴょんぴょんと意外に早いスピードで木々の間を走り抜けていくウサギを捕まえるのは至難の業で。ただでさえ鈍臭い私だからその差はますます広がる。何故かアジトへの道を爆走しだすこのウサギさんはどこに行こうとしているの。不思議の国に行けたアリスが追いかけたのは白いウサギだったけれど、私が今追いかけているのは真っ黒なウサギた。このままついていった暁には何処へ行けるんだろう。急に消えたウサギに戸惑いキョロキョロと見回しているとゆっくり上から人影が降ってきた。
「あ、ウサギさん」
「……」
「どこに行っちゃったのかと思ったらイタチさんの所にいたんですか」
「…目が腫れてますよ」
イタチさんに抱えられていたウサギが無事に私の元に戻ってきた。イタチさん曰わく、散歩の途中にウサギが飛びついてきたらしい。いいなぁ羨ましい。私なんか全力で逃げられた後だったもの。何故かイタチさんが持っていたキャベツを美味しそうに食すウサギは、現在、私とイタチさんの間に座っていた。
「このウサギは俺と一緒なんです」
「?」
「キャベツが好き」
「あぁそっちですか」
なんだ、そっちか。寂しいと死んじゃうのかと思って驚いた私が恥ずかしい。第一、イタチさんはそんなメンタルが弱いわけないだろう。私と同じ位置づけにするなんておこがましい。イタチさんは、どっちかというと一匹狼って感じだしね。
「あなたもウサギに似ています」
「私、ニンジン嫌いです」
「違う」
「……」
「一人じゃ寂しくて死んじゃうんでしょう?」
こいつから聞きました、と頬袋をパンパンにしたウサギを指して言うイタチさん。なんか、もう流石だ。ウサギとコミュニケーションがとれるなんて、意志疎通ができるなんて。下手に反論も出来なくてうつむいていればイタチさんが恐る恐るというように私の手を握ってきた。反射的に握り返して、あ、しまったと言うように離そうとしても惜しい気持ちが勝って、結局そのまま繋いでおくことにした。