09

近づいてくる足音を耳は捉えるものの、本能に任せたその行為を止められるわけもなく、私は男の首に食い込ませていた歯に一層の力を入れた。とっくに失血死した身体は重たくのしかかってくるが、それをなんとか支えながら血を啜る。静かな部屋にぴちゃぴちゃと私が血を舐める音だけが響いていた。背中の方から乱暴に襖が開けられ、すぐ側の屏風が倒される音がする。ゆっくり振り返り、想像していた人物と違うその人に目を見開いた。

「イタチさん……?」

暁の外套を羽織り、私を見下ろすイタチさんの目は最初に会った時のように冷たかった。血を啜るという興奮が冷めていき、なんとなくイタチさんと目を合わせずらくなって下を向いた。どうしてイタチさんがここに居るのだろう。とりあえず乱れたを着物を直し、イタチさんに向き合うと、丁度廊下の照明が後光のようにイタチを照らしていた。思わず見とれてしまうと同時に、いかに自分が矮小な人間なのかを思いしらされる。そっと巻物を懐にしまいながら自己嫌悪に浸ってしまう。

「どうして?」
「……」
「どうしてここにいるんですか?」

無言で布団の上で死んでいる男を、私の上から乱暴に蹴飛ばしたイタチさんは何かに苛立っているようだった。それが恐ろしい。私を部屋に招き入れてくれた時、一瞬に湖に行った時のような穏やかな雰囲気ではなくなったイタチにどう対応していいのかわからない。とりあえずこんな場所にいるのもアレだから、とイタチの袖を引っ張って外に出る。猥雑な繁華街で私とイタチだけがぽっかり浮いているようだった。イタチに聞きたいことはたくさんあるが、とてもじゃないけど話し掛けられない。私の泊まっている宿に着く頃にはイタチの機嫌が良くなっているように祈りながら歩いた。

「口の端、付いてますよ」

宿の部屋に入るなりに言われた言葉。慌てて唇を拭うも反対側だったようで、イタチさんの手が乱暴に左の口角を拭うもんだからヒリヒリして顔をしかめた。座卓の前に座りお茶をすすりだすイタチさんのマイペースさについていけずにあたふたとして、悩んだ挙げ句にイタチさんの前に座った。本当に何しにきたんだろうこの人は。

「夕ご飯はもう食べましたか?」
「いえ、まだですけど……」
「けど?」
「何しに来たんですか?」

伏せられていた目が上げられ、写輪眼を向けられると自然と、背筋が伸びた。イタチさんは大蛇丸様にどこか似ているのかもしれない。茶葉がくるくると回るのを見ながらそんな思考に至った。じっ、と見つめられるのは気まずい。しかも、あんなシーンを見られたすぐ後だからもっと気まずい。

「あなたを迎えに来たんです」

唐突で、意味がわからないと眉を寄せると、イタチさんは不思議な笑みを浮かべていた。写輪眼の模様に目が回りそうだった。

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