07

私はイタチさんを散歩にへと誘った。昨夜のお礼として何かしたほうがいいのかな、と考えた挙げ句に出てきた答えが散歩だなんて自分の脳味噌の容量はどれだけ低いのか。駄目元でイタチさんを誘ってみると意外にも返事は構わない、と肯定の返事だったから驚いた。数分後、部屋から出てきたイタチさんを連れて行った先はすぐ近くにある森。賑やかな町は私が苦手とする所だから、私のお気に入りの場所を案内して挙げることにしたのだ。いつものコースをゆったりと歩く中、二人が無言なのは気にならない。

「ほらっイタチさん見てください」
「……」
「もふもふですよ。かわいいでしょう?」
「……まぁ」

木陰に見知った影を見つけて抱き上げたソレをイタチさんに差し出す。真っ黒なウサギの毛はふさふさでつぶらな瞳が見つめる様子は本当に可愛い。渋々というようにウサギを抱き上げるイタチさんはやはり優しいのだろう。ゆっくり毛並みを撫でれば、ウサギは気持ち良さそうに目を閉じた。

「懐かれるの早いですね。私なんか最近やっと警戒しなくなってくれたばかりなのに」
「俺に懐くのも、あなたを信用しきっている証拠でしょう」

そう言って私にウサギを返してくるイタチさんの目は優しく細められていた。笑ってくれたらもっと素敵なんだろうな、と思ってウサギを受け取ると、私に飽きたらしいウサギは地面へと逃亡してしまった。再び森の奥へと向かう途中、私の少し後ろを歩いていたはずのイタチさんが私の隣を歩いていることに気づいたが、何も言わなかった。眼前に広がる湖。

「ここが私のお気に入りの場所ですよ」
「湖……?」
「見た目浅そうですけど、異常な透度による錯覚なんです。本当は恐ろしく深いんです」

試しに足元の石を蹴って落とすと、随分長い時間をかけて沈んでいった。興味深そうに覗きこむイタチさんの顔が水面に写っている。

「入って溺れかけたことありますしね」
「……」
「いや、あの、夜でしたし」
「……」
「……泳げないんです」

イタチさんの探るような目を受けていらないこともベラベラ喋ってしまう。呆れたような顔になったイタチさんにいたたまれなくなるが、泳げないものは仕方ない。こんなんが相方なんてイタチさんもいい迷惑だろうと俯いたら、イタチさんの手がそっと何かを差し出していた。

「四つ葉のクローバー?」
「そこに生えていたんです」

イタチさんが指差す場所は水面ギリギリの場所で、そのせいかクローバーは少しだけ水気を含んでいた。イタチさんも外套で手を拭っているから、濡れてしまったんだろう。手に収まる小さなクローバーに何とも言えない気分になった。

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