ん?いつもの癖で、寝返りついでに大蛇丸様に抱きつくと何かが違った。一つ目は大蛇丸様の反応。いつもなら振り払うか抱きしめ返すかしてくださるものが、今日は全くの無反応。二つ目は抱きついた相手の体格。大蛇丸様はもっと大きい。二つ目の違和感を感じた時に、脳味噌の中で昨夜の記憶が芽生えてきた。つまり、こいつは大蛇丸様ではない。一気に頭が覚醒していき、もう一度寝返りをうって、抱きついた手を引っ込めてみる。相手に背を向けて深呼吸。何てことだ。大蛇丸様と間違えて私はイタチさんに抱きついていたらしい。だが、イタチさんは熟睡しているようで動く気配もないから、もう一度だけ、寝返りを打ってイタチさんの寝顔を眺めることにした。
「睫毛長いなぁ」
「……」
「なんかいろいろ負けた気分です」
「……」
「イタチさん、起きてるでしょう」
その言葉でイタチさんの睫毛が揺れて、ゆっくりと目が開かれた。狸寝入りのクオリティの高さに拍手だが、大蛇丸様で鍛えられている私には通用しない。全く彼はいつから起きていたのだろう。ゆっくりと布団から起き上がり軽く伸びをするとはだけた胸元にイタチさんの視線を感じた。どこか禁欲的な雰囲気をただよわせる彼だが、全く性欲が無いというわけではないらしい。
「お礼は身体を所望ですか?」
「いや、目の保養程度で結構です」
イタチさんが起き上がって首を回すとポキッと歯切れの良い音がした。癖なのだ。恐る恐るイタチさんの首に手を伸ばすと警戒の眼差しを向けられるのを尻目に、いつも大蛇丸様にやっているようにツボ押しを開始した。これだけは自信がある。というかマッサージの上手さだけはS級なのだ。大蛇丸様にもこれに高い評価を頂きパシリとして側に置いていただいている。あ、なんか悲しくなってきた。
「……随分凝ってますね」
「最近疲れてましたから」
「しばらくは任務も無いと思いますし、ゆっくり休んでください」
スルリとイタチさんの横を抜けて床に足をつける。部屋を出る間際に振り返るとイタチさんは私に背を向けて再び横になっていた。イタチさんは一睡もしていなかったかもしれない、という疑念が私の中に浮上し、何だか申し訳ない気持ちになる。そりゃあ、いつ寝首をかかれても可笑しくない状況で寝るなんてことできるはずもないのだから、仕方ないと言ってしまえば仕方ない。もしかしたら大蛇丸様は、私がイタチさんの部屋に泊まることでイタチさんを疲労させるつもりだったのかもしれない。なんて奥深い。
大蛇丸様の部屋に入り、まだ寝ているであろう大蛇丸様の寝台に潜り込む。今日は珍しく後ろから抱きついた手を振り払われることなく受け入れられた。