05

これは思わぬ展開である。昼間言われたことは大蛇丸様の冗談だと思っていたのに。固く閉ざされた扉をドンドンと叩いて、開けてくれるように懇願しても何の反応もない。イタチさんの部屋に泊まれだと…?先ほどサソリさんの部屋から追い出された時に言われた言葉が頭のなかを駆け巡っている。廊下は寒いし固いしで嫌だがイタチさんの部屋はもっと嫌なのだ。なんとなく嫌。万感の思いで大蛇丸様の名前を呼び続けるが、強固な結界が張られている部屋の中では私の声なんてほぼ聞こえていないだろう。もしかしたら、もうお休みになっているのかもしれない。

「……グスン」

仕方なく大蛇丸様の部屋の前で体育座りで待機の体制に入った。それにしても大蛇丸様は酷いや。何も言わずに私を追い出したから私も何がなんだか分からなくなってしまった。自己判断が苦手だって知っているはずなのに。深夜を回りかけた廊下は暗いし寒い。暁の外套をきつく身体に巻きつけて寝る体制に入っても、収まることのない鳥肌にうとうとしては、ビクリと目覚めた。

「……何しているんですか」
「……」
「そんな所で寝ると風邪引きますよ」
「イタチさん」
「何ですか」
「寒い……」

まどろみの中でイタチさんの声が聞こえた気がして顔を上げると、確かにイタチさんがいた。訝し気に私を覗きこむその顔が端正だったためにしばらく見とれてしまう。ぼんやりとした思考の中で何か言ったようだが、それは中枢神経を通って私の脳味噌が意味を咀嚼する前に、イタチさんに手を引かれたことによって遮られた。

「どこ行くんですか?」
「俺の部屋ですよ」
「……」

彼は大層なお人好しらしい。というか優しいのだろう。掴まれた手首からイタチさんのじんわりとした温もりが伝わってきて、それは決して居心地の悪いものではなかった。思考を放棄して、イタチさんに連れられるままに入った部屋は大蛇丸様のごちゃごちゃとフラスコやらビーカーやらが置かれている部屋と全く違い、むしろ殺風景だった。ドサリと寝台に腰掛けたイタチさんがうろうろと視線をさまよわせる。理由は簡単、この部屋には布団は一式しかないのに加えて、寝台は一人用。同情から私を連れて来たのはいいが、どうしていいか分からないようだった。

「好意は有り難うございます。でも私は大丈夫だから寝台はイタチさんが使って下さい」
「あなたはどこで寝るつもりですか」
「部屋の隅で十分です。ここは廊下と違って暖かいですし」

そう言って部屋の隅っこに向かおうとすると、再びイタチさんの手が私の手首を捉えた。クイッと引き寄せられれば私の身体はあっけなく寝台にダイブし、慌てて起き上がろうと試みるも隣に入ったイタチさんによって出口はなくなった。寝台から降りるにはイタチさんを跨ぐしかなくなったわけだ。

「諦めてください。それともこれ以上騒いで、俺の睡眠時間を減らす気ですか?」

そう言われてしまうばグゥの音もでないし、なによりも恐ろしく眠かった。もういいや、と諦めの境地に入り、イタチさんに背を向けるようにして寝る体制を整える。おやすみなさい、ポツリとイタチさんが呟いた言葉を眠ったふりをして聞きながした。

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