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スマートフォンで設定したアラームが鳴り、名前の意識は浮上した。目を開け、すぐ横を見ると神威の寝顔。近い。ぎょっとしながらも慌てて起きた。寝起きの浮腫んだ不細工な顔を見せたくない。寝ぼけ眼のまま洗面所で洗顔をすまして歯も磨いた。朝食は昨日買った。神威が起きる前に着替えもすまそうと名前は衣類をあさった。今日の夜は高杉と会う約束だ。お気に入りのワンピースとタイツを引っ張り出した。念のために洗面所で着替える。化粧もしてしまおう。たっぷり三十分はかけて化粧が終わったころ、ようやく神威が起きた。

「起きるのはやいネ」
「女の子はいろいろと時間がかかるの」
「あれ?今日はなんか張り切ってる?」
「夜ちょっと用事があって……」
「ふーん」

顔を洗うという神威と入れ違うように台所に向かった名前は菓子パンを机の上にだし、簡易スープを探した。あった。コーンクリームか、エビのビスク。神威に尋ねるとコーンクリームが飲みたいという。二人分のマグカップにコーンスープの素を淹れ、お湯を注いだ。一人と違って食事が楽しい。

「いただきます」
「いただきます」
「まだ眠いヨ」
「だからさっさと寝な、って言ったのに」

大きなあくびをする神威に名前は苦笑いを浮かべた。目を閉じたままもそもそとパンを食べていく。今にも寝そうな神威に名前はコーンスープの位置をずらした。可愛い。さっさと食べ終わった名前が食器を片づける。その音につられて神威はスープに口をつけた。

「熱っ!」
「え、大丈夫?」
「名前さっきこれ一気に飲んでなかった?」
「飲んだけど……」
「火傷してないの?」
「まったく」

熱さで目が覚めたようだ。神威がぱっちり目を開け、名前を凝視した。彼女の顔から左の首筋へと視線を写した。ふふん、と笑う。首をかしげる名前に神威はなんでもないヨ、と深い笑みを浮かべた。着替えた神威と並んで歯を磨き、大学へ向かう準備をする。神威の髪も名前が三つ編みにした。彼のさらさらした髪を触れる幸せ。恋人どうしみたいだ。少しだけ、幸せ。神威と一晩過ごして何もなかったことに安心しつつも、残念に思っている自分もいた。


■ ■ ■


二限の教室。座席は真ん中らへんの左端を確保。神威と一緒に昨夜書き上げたレポートを教壇に設置された箱に入れた後、席に戻ると阿伏兎が教室に入ってきた。右手を上げて彼を招きよせる。神威は阿伏兎と入れ違いになるように生協に行った。

「大丈夫だったか?」
「うん。何もなかったし」
「それもそうだが……」
「大丈夫だよ。本当に大丈夫!」
「そうかィ」

軽く名前の頭を撫でた阿伏兎はレポートを提出しに行った。ぞろぞろと教室に入ってくる人波のなかに沖田と土方を見つけた。妙や猿飛はまだいないようだ。土方に手を振ると沖田も気が付いたらしくこちらにやってくる。名前の後ろの席に沖田が座った。山崎に土方と沖田はレポートを押し付けた。

「今日の席、意識高めじゃないですかァ」
「どこがだ」
「土方さんは黙っててくだせェ。なんなら一人で最前列いってもいいんですぜ?」
「死ね沖田」
「死ね土方」

真ん中の席だが、いつでも抜けられるように端っこに座る名前は相変わらずの二人に苦笑を浮かべた。壁についているコンセントにタコ足を設置し、充電器をスマートフォンにつなぐ。ツイッターを見返しているうちに神威と何故か阿伏兎も一緒に帰ってきた。神威の手には菓子パンやらジュースやらが抱えられている。

「なにそれもうお昼買ったの?」
「朝ごはんだヨ」
「今朝食べたじゃん」
「あれだけじゃ足りないネ」
「……」

名前の隣に腰を降ろした神威はまずメロンパンの袋をあけてかぶりつく。それを呆れた様子で眺める名前の背中を沖田が突っついた。振り返る名前。沖田が口を開いた時、教授が教壇に上った。仕方なく前を向く。神威は教科書を立てて二個目のパンにかじりついていた。阿伏兎もリンゴジュースを啜る。チョコレートを差し出す神威から素直に受け取り、名前は欠伸をかみ殺した。スマートフォンが振動し、ラインの通知が表示された。

『お腹空きやした』
『朝ごはんは?』
『食べてない』
『神威のパン少し貰ったら?』
『生協行きやしょう』
『今?』
『今』
『立つのめんどくさいよォ』
『名前最近太りやしたよね』
『……』

スマートフォンの画面を凝視したのち、自分のお腹を軽くつまんだ。それを見た神威が名前の腹部を突っついた。その手を軽く叩く彼女と笑いながら再びちょっかいを出す神威がちらっ沖田を見た。視線が交差する。神威が自分のスマートフォンを弄り、名前のスマートフォンが震える。メールか、ラインか、スカイプのチャットか。何かは分からないが恐らく神威がら来たそれを見た彼女が神威の足を軽く蹴った。

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