05

名前は銀時と会った場所でもある戦場跡に来ていた。戦装束を適当に見繕うと思ったのだ。腐敗しつつある死体から自分に合いそうな羽織等をかっぱらっていく。草履からなにやら一通り集めた名前が顔を上げるころにはすっかり日も落ちていた。そろそろ戻るか。戻る場所があるということは嬉しいことだった。着流しの上に今日の収穫物である陣羽織を羽織って歩く名前の正面から銀時が歩いてきた。名前の姿を見つけて駆け寄ってくる。

「お前外に出るなら出るって一言言って行けよ」
「あぁ、ごめん」
「ったく……それ、集めてきたのか?」

名前の手から収穫物をひったくるように奪うとそれを持った銀時は寺へ向かって歩き出した。親切心らしい。特に自分で持たなければならない理由はない。銀時の影を踏みながら名前の心は躍っていた。どうしてか、彼と居ると気分が高揚する。

「そういえば昼間言っていた人たちはもう来てんの?」
「とっくにな。今頃酒宴の真っ最中だろうよ」
「探しに来てくれたんだ」
「……うっせ」

寺はにぎやかだった。帰っていた名前と銀時の姿を見て桂が手招きする。名前の荷物を適当に放った銀時は呼ばれるまま桂の元に行った。しかし名前の足は動かない。まさか。顔を赤くして笑う連中には見覚えがあった。名前が此処に来る前に一緒にいた連中だ。向こうも名前に気が付いたらしく目を丸くする。

「あっはっはー!!そうかおんしが白夜叉か!」
「なんだこいつ」

耳に覚えのありすぎる馬鹿な笑い声。名前がその声の方向を向くと予想通り、銀時の隣には坂本がいた。今日来る連中とは坂本の隊の奴らだったのか。名前の袖を引く仲間たちはとりあえず彼女を座らせた。積る話があり過ぎる。盃を渡された名前はとりあえず酒を喉に流し込んだ。

「この酒薄い」
「下っ端の定めじゃ。まあ飲め飲め」

薄められた酒を更に流し込んだ名前は彼らのつまむ干物にも手を出した。名前の姿を見てふらふらと寄ってくる仲間に「かやるなよ!」と声を掛けた。生きていたのかと聞いてくる仲間に傷を見せて、負傷し川に流され村人に救われた話をした。戦場からいきなり消えれば誰だって死んだと思うだろう。坂本が落ち込んでいたと聞いて申し訳ない気持ちになった。

「ちょっと会いにいってくるね」

そう言って立ち上がった名前は坂本の元に向かった。目の前に立つと坂本は笑い声を止めた。目を丸くする。にやっと笑った名前は坂本の前に置かれた薄められていない酒を飲み干す。いい芋焼酎だ。

「おんし、名前か……!?」
「久しぶり。元気してた?」

歓喜のあまり抱き着いてきた坂本を引きはがしながら名前は再会を喜んだ。面識があったのかと桂は驚く。髪をぐしゃぐしゃにされた名前は坂本を押しのけ、手櫛で頭髪を整えながら坂本に酌をした。かんぱーいと声を上げて盃を交わす。名前を押しのけるようにして座ってきたのは高杉だった。

「なんでテメェが上座にいんだよ」
「酒の席でもうるさい男だね、お前」

静かに火花を散らす高杉と名前に坂本は笑った。男だらけの中にいれば口も悪くなる。土佐の連中と居るうちに土佐弁が移った名前の口の悪さは天下一品。坂本も何度泣きそうになったことか。元気そうな名前を見られて満足した坂本は彼女を隣に置いたまま銀時に話を戻した。名前は高杉とにらみ合ったまま酒をひたすら消費していく。お互いに注ぎあっているものの、相手を潰そうとしているのは明確だった。

「次の戦は明後日だ。せいぜい死なねえこったな」
「はっ。人の心配するより自分の心配した方がいいんじゃないの?」

せせら笑う高杉に名前のこめかみがひくつく。何故か気に食わない。何が気に食わないのか分からないが、とにかく気に食わなかった。いくら飲んでも素面の二人と裏腹に周りの連中は顔を真っ赤にして語りあっている。

「坂本、あんたもいい加減にしなよ」
「銀時テメーもだ」

特に顔を赤くした坂本と銀時は名前と高杉に止められてようやく酒から身を離した。それを見届けて名前は仲間たちの方へと戻る。目障りな女が消えて清々したと高杉が吐くと桂はそれを叱責した。共に戦う仲間なのだ。最低限仲良くしてほしい。

「おい名前。お前白夜叉と話したことあるか?」
「坂田のこと?あるけど」
「どんな感じ?」
「ハァ?」
「おっかない?」
「別に普通。あたしをここに連れてきたのも坂田だし」

遠巻きに銀時を見る仲間たちは尊敬と畏怖の念を抱いた眼をしていた。白夜叉の噂は聞いたことがある。なるほど、白髪だから、白夜叉。恐ろしく強いらしい。仲間から聞く白夜叉像と名前の視線の先にいる銀時はマッチしなかった。戦場に出れば性格も変わるものだろうかと首をひねる。襖を取っ払い二十畳ほどの広さになった宴会場では酔いつぶれた男が雑魚寝を始めていた。今日はこの中で寝るのか。あまりいい気分ではない。口を押えて外に駆けていく仲間を馬鹿にしたように目で追った名前は自分もそろそろ限界が近づいてきていることを察した。

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