04

名前に自分の予備の刀を渡した桂は彼女の腕前を見てみたいという。いい加減体も鈍った名前は素直に素振りを始めた。右肩の傷が開かない程度に体を解していく。権兵衛と呼ばれる彼も興味があるのか銀時の隣に腰かけて名前の様子を窺っていた。数分ばかり刀の様子を確かめた名前は桂に頷いて見せた。

「名前って強いの?」
「あー刀握ってるのは見たことないですけど、素手はなかなかですよ」
「へー」

桂と名前はお互い刀を構えて間合いを探っている。腹式呼吸で浅く開いた口から静かに酸素を吐き出していく。ぴりぴりとした緊張感が二人の間に流れていた。桂の腕が少し揺れた。釣られるように名前の足が動いた。

「……うっわ卑怯だなあいつ」

勢いよく蹴り上げられた名前の足元の砂利は桂の視界を遮った。目をやられれば負ける。瞼を下ろした桂だったが、斜め上から振り下ろされた名前の刃はしっかり自分の刀で受け止めていた。弾いたと同時に目を開けて斬りかかる。背をのけぞるようにして躱した名前は左手を使って桂の刀の峰を抑えた。刀を軸点にして飛び越えるように体を滑らせて上から斬りかかる。鍔競りになったら確実に負ける。切先が桂の胸部にあたる寸前で刀身を反転させた名前だが、その隙を見逃す桂ではなく、柄頭を彼女の腹部に叩きつけた。

「……うっ」

呻く彼女は桂の振るう刀を鍔で受け止める。腰の重心を一気に落とし、桂の足を掬った。バランスを崩したのを確認してから、刀を弾き上げる。弾くために上がった右手を抑えられ、名前は桂もろとも地面に倒れ込む形になった。お互い刀は弾かれ手の届かないところにある。

「はい終ー了」

銀時の間延びした声を聞いて二人は離れた。これ以上やっても殴り合いになるだけだろう。一礼した名前は飛ばされた刀を拾いに行った。桂も同じように刀を拾う。なんて女だ。普通手合せで目つぶしを使うか。手加減はした桂だったが、名前も負傷中。評価は上々だ。

「大丈夫か名前」
「脇腹の傷開いてないコレ?」

おもむろに着流しの上半身を乱した名前に桂は目をそらす。銀時と権兵衛は彼女の指差す傷を確認して顔を顰めた。血がにじんでいる。だが、それほど悪化しているわけではない。大丈夫だと告げると着物に肩を通した彼女は持っていた刀を桂に返した。

「俺はこの刀があるから大丈夫だ。やろう」
「いや、やっぱりあたしあの刀が欲しいし」

そういった名前は屋根の上を仰いだ。先ほどもつれ合った時に偶然視界に映ったのだ。逆光に目を細め、屋根の上にいる高杉に降りてくるよう言う。名前の隣で同じように高杉を仰いだ銀時はいつから見ていたのかと首をひねった。

「怪我治ったんなら出ていきやがれ」
「はっ。残念ながらもうしばらく厄介になるよ」
「ふざけんな」
「あたしも現場復帰すんの。怪我も良くなったみたいだしね」

ね、構わないでしょ。と名前は桂に話を振った。自分も戦場に出たいからここに置いてくれと頼むと桂は快諾した。女が戦うということに偏見はない。高杉は不服そうだが。屋根から降りてきた高杉は銀時の隣にいる権兵衛に視線を配った。さっきからずっと高杉に何か言いたげな視線を送り続けていたのだ。

「んだよ」
「こいつ、総督の探してた名前ですよ」
「……」

名前をまじまじと見て、高杉は鼻で笑った。こんな奴を探し回っていたのか。街で会った時のように挑発的に高杉を見る。馬が合いそうにない。彼女の着ている着物が自分のものだ。少しは感謝をしてもらいたい。

「足引っ張んじゃねェぞ」

そう言い捨てて高杉は権兵衛を連れて鬼兵隊連中のもとへ行った。名前は大きく伸びをして欠伸をする。桂も地図の整理をすると言って部屋に戻っていった。残された銀時の隣に腰かけて名前は爪を弄った。

「マジで戦争に参加すんの?」
「もともと参加してたしね。怪我で離脱したけど」
「あぁ、なるほど」

怪我をした奴らが戦場を離れるのは当たり前だ。看病なんてできるわけがないし、戦力外に物資を割く余裕があるとは限らない。名前は自分のいた陣を離れて権兵衛のいた村に身を寄せていたと語る。野良仕事を手伝いながら傷が癒えるのを待っていたと。国に帰ろうとした矢先に倒れたらしい。

「次はいつごろ出るの?」
「天人の情報が入ってきしだいだな。そういえば今日は他の陣のやつらも来るらしい」
「へェ……この寺は広いからいいね。あたしが前いたとこは洞窟を根城にしてたから最悪」

縁側で横になった名前は崩れかけた塀を見て笑う。ここの奴らは変わった奴らばっかりだ。まず名前が女であることに対してとやかく言って来ない。女を守るのが男の役目?怪我人を前にビビっている姿を見せられて白けた記憶がある。

「名前なんだっけ」
「俺の?」
「うん」
「坂田銀時」
「坂田か」

銀時と聞いて彼の髪を見た。地毛かと聞くと地毛だと返ってくる。おもむろに手を伸ばし、その銀髪を掻き混ぜた。くるくるした髪が珍しい。名前も癖っ毛だがここまでではない。

「いいね」

そう言って名前は立ち上がった。寺の中を見て回りたいと言う。鼻歌を歌いながら歩いていくその後ろ姿を見送った銀時は数刻後、彼女を探すために走り回ることになるとは思いもしなかった。

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