08

中忍試験で忙しいらしく、私とカカシの会う回数も減った。私も中忍試験のための任務で忙しいし、カカシも自分の班の修行のせいで忙しい。自然に距離を置くにはちょうどいいかな、と思った。実際カカシが見知らぬくのいちと二人で歩いているところを見ても、嫉妬とよべるような感情は湧いてこない。少しはもやっとするが、それよりも仕事を選らぶことができる。カカシと二人っきりになった時にも特に責めるようなことは言わない。そんな私の態度に何か察したのかは分からないが、カカシも少しだけ距離を置くようになっていた。しかし、落ち着けば、元のように戻るだろう。

「元のように、なァ」
「恋の達人にアドバイスを求めてみようと思いまして」
「ほぼ初対面のわしを釣ったその度量は褒めたいものじゃの」
「ありがとうございます」

私は自来也様と小綺麗な茶屋にいた。カカシが大好きないちゃいちゃシリーズの著者、自来也。街で見かけて声を掛けたのだ。相談なのですが、と。

「気持ちが離れるのを無理に抑える必要はないのぉ」
「はぁ」
「本当にその恋人と一緒にいたいのか?」
「…よくわかりません」
「じゃあ、抱かれたいとは?」
「あー…嫌じゃありませんね」

もうコレはセクハラの域じゃありませんか?なかなかに際どいことを聞いてきたせいで、真昼だというのに彼との情交を思い出してしまった。身体の相性はいい。カカシとのセックスは好きだ。抱かれてもいいと思えるが、このままの関係を続ける気は失せそうになっていた。一旦区切ってもいいのではないか。けれどもどうやって切り出す?カカシに悪いところはない。そもそも何かがあったわけではない。どうしようもない悩みを完全な第三者に吐き出したかったのだ。

「運命を信じるか?」
「え?」
「一回別れて見ろ。そこでしか見えないものもたくさんある」

そう言って自来也は席を立った。お会計はこちらで持とうと思っていたのにさらっと払って行ってしまった。名前すらも聞かれていない。それも自来也の配慮なのだろうか。別れて、見ろ。恋人以外の彼の顔を今までよりも近くで見て、どう感じるか。そういうことなのだろう。すっかり冷めてしまったお茶を啜って小さな溜息を付いた。幸せ者だ、私は。



■ ■ ■


月光ハヤテが殺された、との一報が木の葉の忍を駆けた。最初に伝わってきた情報は、木の葉の中忍が殺された、とのこと。それを聞いた私の脳裏にはかつての恋人の姿がよぎったが、すぐに消えた。怒っているわけでも嫌っているわけでもないが、無事を確認しに行こうとも思わなかった。その情報が後々、特別上忍が殺された、に変わり、ハヤテの名が確認された。上忍が殺されたと聞いたとき、カカシが会いに来た。

「念の為、ネ」
「…今回の中忍試験、なにかおかしいよ」
「あぁ…俺も少し調べているが砂がきな臭い。お前も気をつけてくれ。夜の一人歩きは控えろよ」
「できるだけ、ね」
「…迎えにいってやれなくてすまないな」
「カカシもサスケの修行で忙しいんでしょ?頑張って」

カカシの指がマスクを少し下げ、私に唇を落とした。触れるだけのキス。目を閉じて数平方センチメートルの体温を感じる。まだ、愛しい。

「いってらっしゃい」
「名前も頑張れよ」

廊下の隅での数分。砂がきな臭いとカカシは言っていた。確かに我愛羅と呼ばれる少年は何かがおかしい。第三の試験、本戦で我愛羅が暴走していると聞いた時、真っ先にカカシの身を案じた。



大蛇丸の木の葉崩しは失敗に終わった。私は入院するサスケの保護者、のような形で少しだけ彼のお見舞いに来ていた。お見舞いの品は果物や花ではなく、忍法書とトマト。リコピンをどれだけ摂取するのかと呆れながら彼にトマトを切って渡す。大人しくそれを受け取る彼の首元には呪印がつけられていた。大蛇丸に付けられたという。

「そろそろ退院できるみたいね」
「あんたは暇なんだな」
「え?」
「他の忍びは忙しそうだ」
「いや、これも私の任務だし」
「…そうか」
「カカシは無駄に忙しそうだしね、ってかほら、火影様が亡くなったじゃない…?で次期候補にカカシの名前も挙がってて…」
「あんたにとっていいことじゃないのか?」
「うーん。複雑な感じ」

潮時なのかな、と思う。私とカカシの間に目に見えないラインが引かれた気がする。恋人としてではなく、忍として。火影の名を背負う人を支えられるだろうか。将来性を考えると分かれるのは惜しい。けれどカカシのことを考えると潮時なのかな、と思う。今更になって始まりを悔いた。もっとしっかり向き合っていればこんな悩まずにいられたのに。失恋の惰性で付き合ってしまったから。ちゃんと好きになってから付き合えばよかった。考え込む私からサスケは目をそらした。どこか自分と似ている。

「人のこと言えないんだけどさ、サスケもなんかイライラしてない?」
「……」
「どうしたの?」
「別に」
「こうやってベッドの上でじっとしてるのがもどかしい?」
「そうだな」
「中忍に上がれなかったのが悔しい?」
「…まあ」
「そういえばナルトくんはお見舞いこないね」
「……」

サスケがおもいっきり顔を背けた。わかりやすい。ナルトが一尾の化け物を倒したらしいと噂で聞いた。サスケはその前の戦いでダウンしていたから悔しいのだろう。我愛羅を倒したのが自分ではないという事実が。そろそろ火影さまの葬儀に行かなければいけない時間だ。パイプ椅子から腰をあげて、サスケに「また明日」と告げた。軽く手を振って病室を出ていく。葬儀場にカカシはいなかった。たぶん、慰霊碑にいるのだろう。お焼香を終えた私は慰霊碑のある広間でカカシを見た。カカシと、暗部の女性。私に気が付いたカカシがこちらにやってくるのをぼんやりと眺めていた。

「カカシ」
「…なんだ」
「落ち着いたらちゃんと話そう」
「…そうだな」

重い息を吐いて二人とも困ったように笑った。火影候補から外れたらしいカカシは少しだけ肩の荷が下りたようだ。背負うものが多すぎる、彼には。そんな彼の荷物にはなりたくなかった。


■ ■ ■


茶屋の前で待ち合わせ。「サスケと待ち合わせる場所が茶屋なんだけど、来る?」と微妙な誘いを受けた私は大人しくカカシの隣でサスケを待っていた。先ほどからカカシの神経が鋭くなっているのがわかる。なにかある。茶屋の前に立つこと数分、やってきたのはサスケではなくて紅とアスマだった。

「よう!お二人さん…仲のよろしいことで…デートですか?」
「バーカ。私はアンコに団子を頼まれたのよ」
「お前こそこんなところで何やってる?甘いもの苦手じゃなかったか…?あぁ…名前とデートか」
「そうそう名前が餡蜜食べたいってうるさくて。お供えものもついでに買おうと思って」
「入らないのか?」
「もう一人、待ち合わせしてるのよ…サスケと」
「お前が人を待つのは珍しいな」
「あたしが引っ張ってきたの」
「そうそう」

わざとらしく肩を抱くカカシを押しやり、私はサスケがやってくるだろう方向に目をやった。小さな人影と目があう。来た、小さくつぶやくと背後の気配が霧のように消えた。カカシの目配せでアスマと紅が消えた。

「名前、頼む」
「了解」
「…サスケ、今日はあたしが修行付けてあげる」
「あんたがか?」
「風遁をうまく利用して戦えるよう鍛えてあげるわ」

その為の理論説明、と言いながらサスケと甘味所の席につく。持ってきた巻物を広げ、簡単に説明したあと早々に演習場に向かった。私の風遁とサスケの火遁。均衡しているときはいいが、風に押し負けた火は倍以上の力となってサスケに襲い掛かる。一面火の海になっているのに気付いた時には二人とも汗だくだった。純粋に火力を上げていく修行。飛んでくる風の刃を火で押さえようとすると、燃え盛る刃が彼を襲う。薄くなった空気で息苦しくなった。チャクラをだいぶ消費したところで休憩を取った。強くなりたい、強くなりたい、というサスケの想いが術を通して伝わってくる。次は対水遁用の修行でもするか、と思ったとき、伝書鳩が飛んできた。「部屋に来い」とだけ書いてある。

「サスケ、ちょっと呼ばれたから行くわ」
「あ?あぁ…」
「何かあったらカカシに言いな」
「わかったよ」

カカシの部屋だろうか。ポケットの中の合鍵を握りしめてカカシの部屋に向かう。先程の事情を説明してくれるのだろうか。開けっ放しの窓からするりと入り込むと、そこには紅とアスマ、ガイさんがいた。

「カカシ…?!」

そしてベッドに横たわるカカシ。命に別状はないと紅が言ったことで肩の力が抜けた。

「イタチが里に戻ってきたらしい。ナルトを狙っている」
「イタチって、サスケのお兄さんよね」
「あぁ。カカシもイタチにやられた」
「ナルトは…?」
「今探してる。心当たりはあるか…?」
「探してみるわ…いや、サスケについてた方がいい?」

不意にアスマがしっ、と唇に手を当てた。カカシの部屋の扉が開く。そこに居たのはサスケだった。緊張感の走る部屋。上忍ばかりでなにを…?と問うサスケに適当な答えを返そうとした私を遮るようにアオバが駆け込んできた。

「あのイタチが帰ってきたって話は本当か?!しかもナルトを追ってるって…」

馬鹿、と誰かが吐き捨てた。飛び出したサスケ。後を追うガイ。サスケはガイに任せよう。こういうとき指揮系統が乱れていると厄介だ。きっとナルトは一楽らへんにいるはず。一楽に駆け込んでナルトの居場所を聞くと自来也と宿場町に向かったという。自来也様が一緒なら一安心だ。宿場町まで駆け、高台から町全体を見下ろす。自来也と腕を組む女性を見かけ、飛び乗った電信柱から彼らの元に飛び降りた。

prev next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -