06

こういう夜は一人酒。火影さまに先日の任務で持ち帰った巻物の解読書を提出し、報奨金を頂いたため懐は温かい。ちょっとリッチなバーにでも行っちゃおうかな。女一人でバーだなんて寂しい。でも、女友達と騒ぎたい気分でもないし、一人は寂しいから宅飲みは却下。前々から気になっていたバーに入った。キラキラした装飾はなく、落ち着いた和風のバー。扉を開けても無音なのが気に入った。大抵のお店は入店すると鈴が鳴ったり、店員が明るく声をかけてくるけれども、それがあまり好きになれなかった。こう、店中の視線が向けられるあの感じが好きになれない。それに比べてここはマスターと思われる人が小さく「いらっしゃいませ」と言うだけだからよかった。その呟きさえも聞こえるぐらい静かなお店。まだ夕方ってこともあるかもしれないが、人影は少ない。

「グラスホッパー一つ」
「はい」

カウンターの一番奥に座る。少し水色がかった乳白色のカクテルの上にはちょこんとミントが乗っていた。積極的に話しかけてくるわけでもないバーテンダーに好感を持った。ゆっくり考え事をするのにちょうどいい。忍装束を脱いだからか、いつも身に纏わりついてくる重荷から解放された気もする。と、同時に寂しくなった。脳が勝手に近しい男性のことを思い浮かべだす。ちょっかいをだしたくなる。…寂しいの。悲しいより、寂しい。勝手に恋人候補を探し出すあさましい心をくだらないと一掃したいが、なにかがそれを妨害する。誰かに傷を癒してもらいたいと思ってしまうのだ。ふとカカシさんのことが胸をよぎる。手が届くわけもないのに。もしあの時、泣いて縋り付いたらどうなっていたのだろう。一夜の慰めぐらいはしてくれたのか。ちょっと笑った。今度4マンセル2チームでの合同任務がある。

(これ以上考えちゃダメ)

酷く無粋な考えを実行に移しそうだ。絶対に後悔する。後悔しかのこらない。しばらくは一人で大人しくしていよう。任務だけに集中していればいい。もしあれならば、火影様に頼んで仕事量を一時的に増やさせてもらおう。

「好きな人がほしい」
「…恋は片思いが一番楽しいんですよ」

耳ざとい人だ。小皿に入れたチョコレートを置きながらバーテンダーの彼は言った。片思いか。思える相手が欲しいのよ。出会いないかな…。でも彼以上の人なんているのかな。先ほど思い浮かべた恋人候補はなにか物足りなかった。人に何か求める前に自分を磨くべき。少なくとも暗い雰囲気は振り払っておこう。うん、いい女になりたい。もっといい男に好かれるようないい女に。

「影のある女性も魅力的ですよ」
「え…」
「ほら、あの奥の男性とか、こちらを気にかけているみたいですしね」
「……」


影のある女性って。すこし気分が楽になった気がする。魅力的か。グラスホッパーの代金を机に置いた。ナンパはまだごめんだ。もうちょっとしたら、新しい出会いも受け入れられるきがするの。帰る時もバーテンの声しか聞こえなかった。



上忍二人と中忍二人で今回の任務にあたる。上忍は私とはたけさん。中忍は前に一度同じ任務にあたった人らしい。ただ名簿を見ただけじゃ顔も特徴も思い出せない。ちゃっちゃと終わらせて、ちゃっちゃと帰りたい。他里からの侵入者を捕獲するだけの簡単な任務?殺してはいけないのがちょっとだけ面倒だった。まあ、あのはたけさんもいるし、3日はかからないだろう。そんな私の心を見透かしたようにはたけさんは苦笑の笑みを浮かべた。

「ちなみに俺らは基本見守る形で」
「え」
「部下を育てたいじゃない」
「…はあ」

確かに中忍に実践経験積ませるのも上忍の役割だけれども。表情は押し殺したけれども彼には私の感情なんて手にとるようにわかるのだろう。ぽんぽんと頭を叩かれ…撫でられた?突然のことに驚いた私のことを見て笑う。思わせぶりな、勘違いさせるようなことをしないでほしい。天然の女たらしなのか。任務書を見るようにして視線を逸らした。勝手な勘違いでうぬぼれるのはごめんだ。少し惜しい気もするが、もういい。

「この任務終わったらさ、」
「はい」
「改めて食事いこうか」

ああ、もう、だから。視線を書類に落としたまま。期待させないで。思わせぶらないで。はたけさんの態度よりもそれにいちいち揺れる自分が情けなかった。どうせ他の女の人にもこんな感じなんだろうな。いや、それか単純に上忍になりたての私とコミュニケーションを取りたいのかもしれない。頭のなかはぐっちゃぐっちゃ。

「どうした…?イヤ?」
「いやじゃないですけど」
「けど…?」
「…なんでもないです」

ここでどうして私を誘ってくれたんですか?とか聞いても馬鹿みたいだ。知らないふり。考えないふり。いまは、恋人なんていらない。しっかりしろ自分。カカシさんの眼差しに深い意味なんてないんだから。


■ ■ ■


捕獲って話だったんだけどな。敵は多くても3人って話だったんだけどな。四方を見渡せば3人はおろか軽く10人はいる。あれ、おかしいな。首をかしげる私と溜息を零すはたけさん。これは見守る形ではなさそうな状況だし。班長であるはたけさんもこちらに準備の合図を出した。続く中忍二人の背後に意識を飛ばしつつ、木の上に陣取る。風遁…

「名字」
「わかっていますよ…うまく避けておいてくださいね」

風遁、風車の術。派手な術だが、別に隠密任務じゃないから、大丈夫。チュイイインと甲高い音を出しながらいくつもの風の刃が回転し、森の木々をなぎ倒していった。上に飛んで回避していく敵の忍をはたけさんは次々に仕留めていく。右手に雷光。あれは、きっと雷切だろう。私の立つ木から放射線状に倒れた木々。綺麗に開いた空間から見える青い空にこんな状況だというのに、ちょっとさわやかな気分になった。

「名字さん…?」
「あ、すみません。もう片付いた?」
「はい」

私のもとに駆け寄ってくる二人の中忍に大きな怪我はないようだ。はたけさんは伏せた敵を縛りあげていた。ちゃんと生きているのかしら。それにしてもここまで人数が多くなっているのはどうなっているのか。再び首を傾げ、近くに転がっている敵をひっくり返して額当てを確認する。雨隠れか。…ふーん。

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