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軽く呑んで軽くつまむつもりが神威の乱入によって急遽二次会に行くことになった。パスタが食べたいとごねる神威のためにパスタの食べ放題の店を阿伏兎が調べる。そういえば家の近所にチェーン店の食べ放題があったはずだ、と思い出した名前は自分のスマートフォンで念のため確認した。

「あたしの家の近くにイタリアンの食べ放題できてるっぽいけど……」
「あ、そこにしよう。終電逃がしたら名前の家に泊まればいいしネ」
「おいおい…おっさんは遠慮させていただきたいんだが」
「泊まるなら阿伏兎くんも一緒にじゃないとちょっと……」
「俺と二人っきりで一夜を過ごせるチャンスだヨ?」
「……遠慮します」

とりあえず移動。ということで三人仲良く電車にのった。キャンパスの最寄駅からは二十分ほど。駅に着いたのは午後九時頃でお店も混みあっていた。店の外で待ちながら課題をやり始める。出席の点数が引かれている分、課題は必ず出さないとまずい。三人とも真面目に課題に取り組んでいる姿を沖田あたりがみたら迷わずシャッターボタンを押すことだろう。授業のPDFとワードを開き、文字数を確認しながら課題をこなしていく。ようやく集中力も増し、打ち込む指が軽やかに動き始めたころ、「三名でお待ちの名字様」と呼ばれた。窓側の席に案内され、バイキング形式の為早々に席を立つ。一枚の皿に三枚のピザしか乗せなかった名前とは違い、神威と阿伏兎は皿一杯にピザとパスタをてんこ盛りに乗せていた。

「……そんなに食べるの?」
「名前はそれで足りるの?それだけじゃ元とれないヨ」
「……神威はいいとして阿伏兎もそんなに食べるの?さっき食べたじゃん」
「あれは前菜みたいなものだ」

一口でピザの半分を口内に収めてしまう二人は恐ろしいスピードで皿を開けて行った。綺麗に食べること。名前が三枚目に手を伸ばしたときには二人の皿は空になっていた。自分の食べるスピードが遅いのかな、とも思うが、普段、猿飛や妙と食堂で食べる時は同じぐらいのスピードだ。二人の食べるスピードが異常ということで結論づいた。

「で、名前と阿伏兎はなんの話をしてたの?」
「え……」
「二人で飲みに行ってたんでしょ。何の話か教えてヨ」
「「……」」

阿伏兎と名前は顔を見合わせた。その光景はあまりにもわかりやすく、神威は口元をゆるませる。名前中心の話で、それになんらかの形で神威がかかわっている話。にやにやと獲物を追い詰めいたぶるかのように凶悪な笑顔を名前に向ける。その笑い方は高杉に似ていた。こうやって一緒にご飯を食べていると昔の想いが再び溢れ出しそうになってくる。ゆっくり膨らむ感情に閉じた蓋を優しく抑える。

「留学とか、講義の話だよ」
「えー嘘だぁ」
「あー。神威が留年する可能性についてだよね、阿伏兎くん」

とんでもない話題を阿伏兎に振ると慌てて水をのんだ阿伏兎がしどろもどろに弁解を始めた。それを機にお代わりを取りに行った。女子高生と思われる集団が参考書を広げながらピザを囲むのを見て、一年前を思い出した。必死に勉強してたなあ。東京の大学を受験しようと思ったのは只の憧れだ。実際オープンキャンパスで都会に出てきたときは驚いた。人の多さと空気の息苦しさ。コンクリートジャングル…。眩暈しそうなほどの感覚に万が一受かった場合やっていけるのかと心配になった。都会の男女は華やか過ぎた。

ぼんやりと昔を思い出しながらピザを選ぶ名前の隣に音もなく神威が近づいた。彼女の皿に乗ったピザをつまみあげ、一口で食べる。

「あ」
「何ぼんやりしてんの?」
「……ううん」

ぽんぽんと特に選ぶ様子もなく片っ端から皿に乗せていく神威に見習って名前も特に考えずになんとなく食べたいと思ったものを皿に乗っけていった。ピザの上にクリームとフルーツが乗ったももある。もう気分はデザートな名前は甘いものを中心にとった。

「どうしたの阿伏兎くん?」
「今日は体育があったからおっさんにはつらかったらしいヨ」

神威と一緒に席に戻ると机に突っ伏している阿伏兎がいた。申し訳なさそうに名前を見る目に嫌な予感を抱きつつ、何事も無いように食事を再開した。さては阿伏兎喋ったな…。まあ、いいか。と開き直りつつ神威の意味ありげな視線を躱した。このお店は九十分食べ放題だ。あと十分ほど。結局時間をフルに使って食べたせいか元は取れたようだ。神威と阿伏兎がいれば大抵の食べ放題も怖くない。

「時間は微妙だネ……」
「もう今日は帰ろうよ。あたしも眠いし……」
「名前、お前さん明日何限から?」
「二限からだよ」

二限からだから九時に起きれば間に合う。けれども明日の二限までに提出しなければならない課題もある。ちなみに神威と阿伏兎も一緒の講義だ。さっさと家に帰って課題を済ませて寝たいのだ。電車をチェックする阿伏兎。終電はあるようだ。駅まで送るという名前を神威は手で止めた。

「俺も明日二限からなんだよネ」
「……」
「だからネ、名前の家に泊まって一緒に課題もやれば効率がいいと思わない?」
「お帰りください」

決定ネ。と言った神威に名前は阿伏兎を見た。もう神威は泊まる。確実に名前の家に泊まる。ならば阿伏兎も来てほしい。神威と二人っきりは色々と耐えられない。名前の懇願するような視線と神威の帰れ、と言う視線。

「女の子の家に上り込むのは気が進まないんでねェ……」

遠回しに神威に一緒に帰ろうと伝えた阿伏兎だったが神威の「じゃあ阿伏兎とはここでお別れだね」と一言で一刀両断された。名前に申し訳ないばかりである。

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