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頭と眼がまるで号泣した後のように腫れぼったい。緩慢な動きで身体を起こすと隣にいたイタチさんが寝返りを打った。…そうだった、私、イタチさんの部屋に泊まってたんだ。慌てて部屋の時計を見るとまだ午前6時。なんだ全然寝れてないじゃないか、と思ってもう一度寝ようと試みても一度冴えてしまった眼では寝れそうになかった。そしてイタチさんの部屋にある全身鏡を見て愕然とする。眼が真っ赤で真淵も酷く腫れているブサイクな顔。

「まだ誰も起きてないよね…」

耳を澄ましてもイタチさんの寝息以外聞こえない。ご両親もサスケくんもまだ寝ているのならばこの眼を冷やしたかった。あと顔も洗いたい。寝ているイタチさんを跨ぐのは心苦しかったが壁際に寝ていた私がベットから降りるには彼を跨ぐしかない。心のなかで謝りながら静かにドアを開けた。神経を尖らせて廊下を歩く。ギシッという小さな軋み音にさえも怯えながら洗面所までたどり着いた。なるべく少量の水で顔を洗い、眼を冷やす。ついでに歯磨きもした。洗面所の鏡に写る顔は先ほどよりもマシにはなっていたものの相変わらず酷い有り様だった。昨日サソリさんから借りたタオルに水を含ませて眼に当てる。もう一度来た道を戻って帰る途中、サスケくんの部屋からアラームが鳴るのが聞こえた。慌ててイタチさんの部屋に飛び込み、慌てながらも静かにドアを閉めた。まだイタチさんは寝ている。もう一度ベットに入りこむ度胸も勇気もない私はとりあえず着替えることにした。寝ているから大丈夫だよね。一応イタチさんに背を向けるような形でシャツを脱いで制服を着ていく。スカートを履いてカッターシャツを羽織って、靴下を履く。この時点でチラッとイタチさんをみたが先ほどと寝息のテンポも手の位置も変わっていなかった。よし。ゆっくりとボタンを留め始めた時に隣りの部屋から二度目のアラームが鳴った。その音に驚いたためリボンが床に落ちてしまった。

「…驚きすぎだろ」
「あ、おはようございます」
「黒の下着なんてなかなか扇情的だな…まさか勝負下着か?」
「…着替え見ましたねイタチさん。起きてるなら起きてる、って言ってくれたらいいのに」
「目の保養だよ」

ぐーっと伸びをして首の骨を鳴らすイタチさんに呆気をとられた。サスケくんのお兄さんだからもっとクールでパリッとした人だと思っていたが、意外な発言ばかりするせいでそんなイメージなんか崩壊。目の保養って何だ。こんなプニプニなお腹で保養になるものか。

「あの、あたし昨夜泣きました…?」
「ん?覚えてたのか。寝たと思ったらすすり泣きながら抱きついてきたから驚かされた」
「……ご迷惑をおかけしました」
「サスケが本当に好きなんだな」

何を言ったんだ昨日の自分。記憶にないのことに加えてイタチさんの呆れたような顔がより恐ろしい想像を掻き立てていく。何を言ったんだ昨日の自分。ふわぁぁあ、と欠伸をしたイタチさんは再びベットへ潜り込もうとしていた。

「ちょ、イタチさん!あたしはどうすればいいんですか?」
「静かにしないとサスケにバレるぞ。12時になったら誰もいなくなるからそれまで大人しくしていてくれ。何なら二度寝するか?」
「……」

二度寝することにした。イタチさんを再び跨いで壁際に収まると布団を掛けてくれる。惚れそうだ。優しく細められた目とか乱れた髪を直してくれる指とか。

「制服姿の現役女子高生と一つ布団の中か…いや、気にするな」

どうしよう。この人もしかしたらただの紳士じゃないかもしれない。


次に目が覚めた時、隣にイタチさんはいなかった。一瞬、ここがどこなのか把握できずに沈黙する。あ、イタチさんの部屋か。いつの間にかベットの中央で寝ていた身体を起こして床に置いてある携帯を取る。

「12時半か…」

時間を確認すると共に不在着信とメールも確認した。サスケくんから一件とサクラから二件、イノから四件も入っていた。メールには三人に加えてヒナタとかキバから「どうした?」と言った内容のものが数件。気になるのがイノからの電話とメール。「ちょっと大変よ早く来なさい!」どうせサスケくん関連だろうけれど。もしかしたらサクラとサスケくんが付き合うことになったのかもしれない。そうだったらイノからの不在着信の多さも納得いく。サクラとイノは仲良かったからなぁ。2人の関係に罅が入らなきゃいいけど。

少し皺のよったスカートを伸ばして立ち上がり、イタチさんがいるであろうリビングに向かう。リビングからはかすかにテレビの音が聞こえていた。

「…おはようございます」
「おはよう。ご飯は食べるか?」
「いえ。これ以上お邪魔したら悪いので帰ります」
「じゃあ送ってくよ」

新聞を畳んだイタチさんが立ち上がり欠伸を一つした。本当に申し訳ない。とりあえず洗面所で顔と歯を磨いてイタチさんの待つ玄関に向かった。昨日のようなスーツではなくGーパンにTシャツというラフな格好はイタチさんのかっこよさを一層引き立てていた。もう、なんかダメだ。兄弟揃って男前すぎるとか犯罪に近いのではないか。昨夜と同じように助手席に座って運転席のイタチさんを盗み見るが、横顔が美しい。ハンドルを握る手がエロい。…何考えているんだ私!

「で、家はどこだ?」
「えっと、あのコンビニの前の国道を真っ直ぐいって一本裏に入った所です」
「…まずはコンビニ行くか」

説明がアバウトすぎて分からなかったらしい。そういえば、アパートの駐車場って空いてるのかしら。たまに車が止まっているのをみるが、留められる車は一台が限界だから先に誰かが止めていたら入れない。まさか送ってもらってそのまま帰ってもらうわけにはいかないよなあ。お茶くらい出さないと。お茶受けのお菓子なんてないし…あ、桃。桃ならまだあった…はず。私が必死に冷蔵庫の中を思い出そうとしているうちに車はコンビニまできていた。

「あ、ここを右です」
「家は近いのか?」
「微妙に…自転車で20分ぐらいですかね…次の角を右で真っ直ぐです」

チカチカというウインカーの音が昨日の記憶を呼び覚ました。サスケくんに送ってもらった帰り道。あの時、サクラと付き合うのを反対したらどうなってたんだろう。同じ道を違う速さで通り抜けながらそんな回送にふけっていた。昨日は弟に、今日はその兄に送ってもらうなんて笑える。

「あの赤い屋根のアパートです!…よかったらあがっていってください。ご迷惑お掛けしたままじゃあ心苦しいので…是非」

アパートの前で停めようとギアを握ったイタチさんの手を止めた。驚いたようにこっちをみるイタチさんに駐車スペースを指差す。このぐらい強引じゃないと遠慮されそうだからだ。私が折れないのを見越してか、イタチさんは呆れたように頷いた。ようやく手を離し、シートベルトを外しにかかる。バックで駐車するために後ろを向いたイタチさんの首筋は魔界の領域だった。

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