10

お弁当を食べながら携帯を弄ること二時間。日付は疾うに越えていて退屈も限界だった。だがしかし眠くはない。こんな時間だと友達にメールすることもできないし、ましてはサクラに電話をかけ直すこともできない。このままだと明日の学校もバイトもサボリそうだな、と伸びをした所でドアがガチャリと鳴った。

「……」
「…………」
「え、イタチさん…?」
「君はあのコンビニの…こんな所で何してる。高校生が出歩いていい時間じゃないし、場所でもないだろ」
「……」
「何してる…いや、家まで送る」
「一応、知り合い待ってるんで…ていうか何で」

イタチさんがここにいるんですか、と言いかけた時にまたドアが開いた。赤い髪が視界にチラついたことからサソリさんだろうと見当がつく。チラッと時計を見ると午前二時を指していて、あぁ風俗関係って確か二時までって法律かなんかで定められてたっけと思った。サソリさんはソファーに座る私とその腕を掴むイタチさんを一瞥してから軽く笑った。

「寝てなかったのか」
「ソファーの寝心地が最悪だったもので」
「ふん…おいイタチ。何してんだ?」

サソリさんから私を庇うみたいに立ったイタチさんのせいで視界から赤髪が消えた。代わりにイタチさんの艶やかな黒髪が視界に入る。そのストレートで長い髪と自分の癖っ毛で中途半端な長さの髪を見比べて悲しい気持ちになった。美しすぎる。というかイタチさんもホストだったんだ。普通のサラリーマンかと思ってたのに。

「サソリさん、女子高生に手を出すのは犯罪ですよ。せめてあと一年待ってください」
「あんなガキじゃ抱く気にもなれねェだろ」
「女なら見境ないくせに」
「おいおい。俺にも選ぶ権利くらいあるんだぜ?…そいつは家出中だから拾ってきただけだ」

家出中。その単語を聞いた瞬間、イタチさんが私を見た。真面目そうなイタチさんに家出のキーワードはアウトだったのか。眉間に皺をよせたその横顔が何故かサスケくんと被ってみえた。

「家出中なのか?」
「あ…はい」
「………」
「えっと、ごめんなさい…?」

怒ってるみたいだからとりあえず謝ってみた。サソリさんは助け船を出してくれないし、イタチさんは何も言わない。無言の重圧に耐えきれそうになった所でガヤガヤと声が聞こえた。お疲れ様でーす、とか、今日の会計が〜とか。そっちに意識を持っていかれるとイタチさんがため息をついた。

「サソリさん。この子どうするつもりですか?」
「あ?あー…家帰りたくないって言い張んなら俺ん家で家事でもやらせようかと思ってたが」
「学校は?」
「行きたくねーなら行かせなくていいだろ」
「……」
「そう睨むなよ。お前、名前と知り合いなのか?」
「弟の同級生ですよ。バイトも一緒の…」

寝耳に水。同級生、バイトも一緒でイタチさんのいう弟の候補が一人に絞られてしまった。まさか。いや似てると思ったけど。サスケくんにお兄さんがいるのは知ってたけど。嘘だまさか。

「あ!あたし帰ります!あの、ご迷惑かけました!!」

このままここにいればイタチさんに醜態を晒すことになる。つまりサスケくんに伝わり幻滅される。反射的に立ち上がってドアに向かおうとするもイタチさんに後襟を掴まれて、再びソファーにダイブする羽目になった。慌ててスカートを抑える。サソリさんが黒、と呟くのが聞こえた。


駄目だサソリさんは危ない食われるぞ犯されるぞとイタチさんに脅されて、脅されてというか、脅迫の内容よりも脅すイタチさんの怖さに耐えきれなかった私は渋々イタチさんに送られることになった。サソリさんは「くっだらねェ」となかなか格好いい台詞を吐いて帰ってしまったから私はイタチさんの車に乗ることになっている。…これって飲酒運転じゃないの?助手席にのりこめば新車らしく革の匂いがした。三色団子のキーホルダーがついた鍵を差し込んでエンジンをかける。

「イタチさんってホストだったんですね」
「違う。今日はたまたま友人に手伝ってくれと言われて来ただけだ」
「…イタチさんってサスケくんのお兄さんだったんですね」
「まぁな」

サソリさんより丁寧な運転をするイタチさんの横顔は、やっぱりサスケくんに似ている。その顔を見ていると夕方のことを思い出してまた凹んだ。サクラがサスケくんのことをずっと好きだったのは知ってる。私が多分サスケくんを好きになったのは最近だ。でも問題は順序じゃないと思う。サクラの告白き触発された私が最低なのは確かだけれども。思い返したら目頭が熱くなったから寝るふりをして目を閉じた。

■ ■ ■


優しく肩を叩かれて微睡みから浮上する。慌てて身を起こせばスーツの上着がはらりと落ちた。車が留められているのは見知らぬ玄関の横で、イタチさんは私に降りるように促した。

「俺の実家だ…大丈夫。父さんも母さんもいるから」

半ば自暴自棄になってた私としては襲われても構わなかったけれど。渡された上着を羽織ってイタチさんの後を追う。もちろん家に明かりなんかついているはずもなくて忍び足で2階に向かった。二階には2つの部屋がある。奥の部屋にイタチさんが入ったということは、今目の前にある部屋はサスケくんの部屋ってことだろう。物音一つしない部屋の扉を見つめる私にイタチさんは手招きをした。

「とりあえず今日はもう寝なさい。明日の学校はどうするんだ?」
「…行きたくないです」
「分かった」
「ごめんなさい…」

そう謝るとイタチさんは気にするなという風に笑った。着替えなんかもってるはずもなくて制服のまま寝るか、と腹を括ったらイタチさんがロングのシャツを出してくれた。制服が皺になったら困るだろう、と。洗面所に案内されて歯磨きまで出してくれる。歯磨きをして着替えて部屋に戻ると、まるで彼氏の家に遊びにきた彼女のようだった。無性にドキドキする。

「ベット狭くてごめん」
「いえ…むしろ床でもいいぐらいなのに」

シングルのベットに2人は狭い。狭いし、この状況に心臓が破裂しそうだ。きっと顔も赤い。スエット姿のイタチさんに目眩までしてきたもんだから慌てて壁の方を向いた。ドキドキドキドキ。異常な心拍数がイタチさんまで伝わってたらどうしようか。

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