08

あっさり終わった夏休み。夏休み後半ぐらいから期末試験のことを脳裏に掠らせてはいたが、無かったことにしていた。現在、職員室。そのツケが見事に反映されている解答用紙を睨みつけるカカシ先生と私がいる。普段は何を考えているか分からないカカシ先生だが、今この瞬間にすごく困っていることだけは分かる。ごめんなさい先生、でも私も予想外なんです。

「名字、このままじゃ希望する学部厳しいデショ」
「…まさか赤点とは思わなくて」
「夏休み何してたの」

ごめんなさい青春をエンジョイしてました。木の葉高校から木の葉大学まではエスカレーター式だからって勉強しなかったのは確かにまずかった。職員室にあるカカシ先生の机の上には8枚の解答用紙。見るも無残な点数過ぎて思わず笑ってしまう。そんな私にカカシ先生も困ったように笑う。だが、目は笑っていないのだ。

「看護学科志望だったよネ」
「…まぁ」
「今度面談しようか」

重ねたテストはトントン、と纏められ引き出しのなかに仕舞われる。カカシ先生は何も言わなかったが、面談までに違う進路も考えてこいということだろう。新しい進路か…どうしよう。


■ ■ ■


何もかもやる気がでない。身体がまだ夏休みの気分なのか、精神的に病んできているのか。最悪のコンディションなのに今日もバイト。自分のことで精一杯なのに人に構っている場合ではない。分かっているが、行かなくてはならないのが社会のルールである。私の機嫌が悪いことを察してくれているらしいサスケくんは「休むか?」なんて言ってくれるけれど、休むのは負けな気がした。

「今日、一人で帰りたい気分だから送らなくていいよ…ごめん」

学校からコンビニまで乗せてもらったくせに、よくもこんなことが言えたと思う。でも、ゆっくり一人で考えたかった。接客も敬遠したくてレジを代わってもらい、ひたすら商品の陳列と中華饅頭を蒸す作業に没頭する。没頭しているつもりでも頭の中は進路のことだけで一杯だ。いまさら受験なんて無理だし、成績もどうにもならない。正直言って看護以外の道は考えていなかった。最終手段は留学。母親のいるアメリカに行くかだ。それか適当な学部にするか。

「名字さん、納品の確認してきてくれない?」
「あ、はい」

頭を仕事モードに切り替えなければ。店長に声をかけられて奥の倉庫に向かった。納品書とダンボールの記述を比べてチェックを入れていく単純な作業。さっさと終わらせて少し休憩入れようかな。レジのピークも終わったみたいだし、ここには客の目がない。非常口のドアにもたれかかってため息を出せば余計にセンチメンタルな気分になってきた。バイトが終わるまであと二十分ぐらい。

「名前…?」
「サスケくん。どうしたの?サボり?」
「店長がもう帰っていいって」
「そう。じゃあ帰るね」

制服に着替える前に納品書を渡さなければいけない。心なしか心配そうに見てくるサスケくんの横を通り越して店長に納品書を渡すと、ゆっくり休むように言われた。その優しさが有り難い。更衣室で着替えて外に出るとサスケくんがいた。

「調子悪そうだから送ってく」
「いや、いいよ」
「お前に相談したいことがある」
「……」

そう言われたら断れないじゃない。相談って何だろう。そもそもサスケくんに悩みなんてあるんだろうか。仕方なく鞄を預けて荷台の部分に跨った数分後、今日はやっぱり厄日だと思い知った。


普段は他愛もない話をしながら時間をつぶしていくのだが、今日はお互いそんな気分じゃないらしく無言だった。いつもはサスケくんの腰にまわす腕も今日は下ろしたまま。車すらめったに通らない道だから堂々と車道を走っていた。

「今日さ」

完全な住宅街に入ったころにサスケくんが話だした。自転車の速度が少しだけ上がる。

「サクラに告白されたんだ」
「…ふーん」
「今回はなんか、本気っぽくて」
「……」
「……」
「好きなの?」
「え?」
「サクラのこと」

私が進路で悩んでいるのにサスケくんは恋愛相談ですか。サスケくんは悪くないがイラッとしてしまうのも無理ないと思う。トゲトゲしい口調の私に居心地が悪く感じたのかサスケくんはいつもと違った。

「サクラのこと好きなの?」
「好きだけど、」
「じゃあ付き合えばいいじゃない」

きっとナルトは悔しがるけどね、とも付け加えておいた。多分サスケくんが言いたいのはそういうことでは無いのだろう。女の勘というか、なんとなく察した。でもサスケくんが何をいいたいのか把握するほど、私は彼と親しくない。自転車の横をトラックが通り過ぎた後、飛び込めば良かったと思った。サクラとサスケくんが付き合うなら私は邪魔かもしれない。自分の彼氏が、友達とはいえ彼女でもない女を送るなんて、サクラの立場からすれば決していい気分じゃないと思う。サクラは気にしてないと言うかもしれないが、私的に嫌なのだ。深夜勤とか店で二人っきりも好ましくないだろう。いっそバイトを辞めて、私の代わりにサクラが入ればいい。

「付き合いなよ、きっと上手くいくよ」
「…そうか」
「ファンの子に嫌がらせされないように、サクラをちゃんと守ってあげるんだよ」
「……」

ファンの子もサクラには手を出さない気もしてきた。お似合いだもの二人とも。涙も出なかったし声も震えなかったが、鼻の奥がツンとした。もしも私の成績が順調で、もしもサクラより先にサスケくんに告白していたらどうなっていたのだろう。サスケくんがサクラに相談しても、サクラは私を応援してくれたはずだ。つまり、そういうこと。見慣れたアパート。サスケくんに送ってもらうのも今日が最後かもしれない。

「じゃあね。また明日」

ずっと目を閉じていたせいか、暗闇になれない眼球はサスケくんの表情を捉えられなかった。

一端部屋に入ったが、落ち着かなくなって部屋を出た。制服のままうろうろすると捕まるかもしれないが、着替えるのも面倒くさい。…コンビニ行こうかな。もちろんバイト先ではなく家から五分ぐらいのコンビニエンスストア。でかでかと数字がかかれたドアを押して店内に入った。甘いもの、食べたいな。生菓子コーナーでティラミスを手に取った。ずさんな店だと期限切れぎりぎりのものが置いてあったりするから、コンビニの生菓子は期限に注意しなければならない。レジを済ませ、駐車場のガードレールにもたれかかってティラミスの蓋を開けた。プラスチックのスプーンでちまちまと食べていく。周りの視線なんか気にしない。万が一、声をかけられても無視すればいい。むしろ周りが私を無視して欲しい。ゆっくり叩かれた肩に振り返る気はしなかった。

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