06

水も滴るいい男。雨で濡れたワイシャツの腕をまくるイタチさんの手を熱心に見つめる私はさぞ不気味だっただろう。そんな私を苦笑いで流してくれるイタチさんは、もうなんかさすがイタチさんだ。これがサソリさんだったら「何見てんだよブス」とか普通に言いそう。サスケくんは「こっち見んなウゼェ」あたりが妥当だろう。

「今日は早いんですね」
「サマータイムだ、って追い出されたんだ。仕事は家に持ち帰りたくないんだかな」
「お疲れ様です」
「しばらく見かけなかったから辞めたのかと思ったよ」
「遊びまわってました。バイト仲間にいい加減働けって言われて来たんですけどね」
「仲いいんだな」
「同級生だから親しいんです。このバイトに誘ってくれたのも彼ですし。夜も送ってくれるしいい人ですよ」

イタチさんから千円札を受け取り、お釣りとして八百八十円を返す。…返したはずのそれは何故か胸元のポケットに突っ込まれた。デジャビュ。いったい何がしたいんだこの人は。私のポケットは募金箱じゃないんだぞ。そういう意味をこめて胸ポケットに突っ込まれたお釣りを募金箱に横流しした。

「……」
「ここはアメリカじゃないので、チップは結構ですよ」
「…なぁ」
「なんですか?」
「彼氏いないだろ」

ぷっちーんと私のなかの何かが切れた音がする。失礼だ、失礼すぎるイタチさん。煮えたぎる怒りをこらえて笑顔で答える。いませんけど何か?やっぱりな、と腕を組むイタチさんに腹が立った。悪かったなモテなくて。

「イタチさんは彼女いっぱいいそうですもんね」
「は?」
「こんないい人、女性がほっとくわけありませんから。女性を侍らせてるイタチさん、容易に想像できますよ。お似合いです」
「…拗ねてる?」
「いえまさか」

レジの横に置いてあったみらたし団子をレジに乗せたイタチさん。パパッと会計を済ませつつ、イタチさんにお釣りを渡すや否やのタイミングでレジから距離を取った。ふっ。そんな私に関わらず、イタチさんはあたりまえのように小銭を財布に仕舞うんだから私が馬鹿みたいじゃないか。

「いま鼻で笑いましたねイタチさん」
「…いや?」
「……」
「拗ねないでもらいたいな」
「私で遊ばないでください」

クスッと笑うイタチさんに何もかも負けた気がした。だって綺麗なんだものこの人!ちょいちょいと手招きするイタチさんに警戒しながら近づいていくと、こんどは包みを手渡された。

「何ですかコレ」
「旅行に行ってた同僚からのお土産。おすそ分けだ」
「…ちんすこう」
「嫌いか?」
「大好きですよ。ありがとうございます」

ちょこんと手の平に載せられた三種類のちんすこう。沖縄名物のこれを見るのは随分久しぶりである。じゃあな、と言ってコンビニを出て行くイタチさん。そろそろサスケくんを起こさねば。


プールで稼いだバイト代の使い道はもともと決めてあった。それは最近駅前にできたケーキ屋さん。早速女の子話題に上ってるそのお店は確かにおいしいのだが、如何せん高いのだ。それでうじうじ悩んでるうちに行く機会を逃していた。しかし、プールの臨時収入でお金の問題は解決した。…だが、そのお店が夏のキャンペーンをやりだしたために悩み事がもう一つ増えてしまった。

「夏のカップルキャンペーン…」
「は?」
「いやいやいや」
「…疲れたのか?休んでてもいいぞ。何なら新作の試食でもしとけ」

やっぱ君はいいやつだよサスケくん。アイスの収納をしながら仮眠室を指差すサスケくんを潤んだ目で見つめると気まずそうに目を反らされた。夏のカップルキャンペーン。カップルで入店するとなんと15パーセントオフという特典がつくのだ。しかし、一人一個のケーキを頼まなければならないという制限つき。元々、サクラ達を誘おうかと思っていたが、キャンペーン中ならその利益をいただきたいと思ってしまうのが主婦心。…誰を誘おうか。クラスの男子を誘ってもいいが、何となく気恥ずかしい。イノはシカマルを連れて行ったらしいが、それは2人が幼なじみだからこそ成せる技なのだ。私にケーキ屋のカップルキャンペーンに喜んで行ってくれる幼なじみはいない。

「欲しいなぁ」
「何が?」
「…いらっしゃいませー」
「パーラメントのいつもの一つ」
「値上がりしましたよね」

今日はボックスで買わないのか。3日ぶりに見たサソリさんは隈が滲んでいてあんまりカッコ良くなかった。カッコ良くなかった、というかおっさんオーラを発している。やれやれ、一体彼に何があったのか。

「テメェがプールで騒いだツケが俺に来てんだよ」
「失礼な。問題起こしたのはサソリさんでしょ」
「お前が次から次に飲ませるからだろ。…あれは事故だ」
「ほら、私は悪くないじゃないですか」

ゴホン、とサスケくんが咳払いをし、慌ててサソリさんにレシートを渡した。レジにはサソリさんしかいないものの店内にはお客様がちらほらいる。そんななかで私語なんて、たしかに誉められることではない。サスケくんのチクチクした視線が何よりもそれを物語っていた。ついには代われ、と言われて私がアイスの納品をやる羽目になってしまったじゃないか。アイス売り場から2人を見ると何やらもめてるようでもめてないようで。顔近っ。

「サ、サスケくーん」
「あ?」
「そんな顔じゃイケメンが台無しだよ…人相悪っ」
「名前」
「な、なに?」

サスケくんの怒りが私が向いた所でサソリさんは帰ってしまった。

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