02

もう深夜勤はしないって、レジの横にあるあの赤いだるまに誓ったの。放課後、真っ直ぐ家に帰って布団に入って目覚ましが鳴って起きたら朝の六時。わぉ十二時間も寝ちゃったよ!と驚いたのが十日前。ついでに言えば、宿題もせずに寝たためイルカ先生にもこっぴどく叱られた。カカシ先生は笑って許してくれたけれど。

「サスケくーん…」
「なんだよウゼェな」
「酷いよサスケくん。あたし通常のシフトが良かったのに。しかも明日…もう今日か、今日金曜日だよ?一週間の疲れがドバーッてくる日じゃん。そんな日に深夜勤なんて…!」
「夕方のシフトはレジがウゼェんだよ」
「サスケくんのレジだけ大行列だもんね!でも自業自得だと思うんだ」

客が居ない店内には私とサスケくんだけ。アルバイト二人に店を任せていいのかどうか疑問だが、信用はされているんだろう。品だしをするサスケの背中をぼんやりみながら、あと一時間で期限切れのお団子を口に運ぶ。本当は仮眠室で食べなきゃいけないが、サスケくんが品だしの仕事をしている以上、レジを開けるわけにはいかない。

「新作のポップどんなのがいいかな?」
「涼しい感じの」
「アバウトすぎるよ…」

ダンボールを畳んで肩を回すサスケくん。少し仮眠をとるとだけ言って仮眠室に引っ込んでいった。疲れてんだろうな。昨日も夜勤だったし。私は帰宅部だけどサスケくんは部活とか委員会とかいろいろあるし。ひとりっきりの店内は少し寂しく、お団子もなくなったためケーキに手を伸ばした。…太りそう。でも食べたいしなぁ。心の葛藤と戦っているうちにピポピポーンとチャイムが鳴った。反射的にケーキを隠し、「いらっしゃいませー!」と挨拶をする。慌てたせいかやたらテンションの高い子みたいになった。

「…元気がいいな」
「あ…あの時の」
「覚えてたのか。世話になったな」

忘れられるわけがない。苦笑していうお兄さんの姿は夢にまで出てきたんだ。もちろん悪い意味で。実はヤクザだったらどうしようとか、傷がもとで死んじゃったらどうしようとか。ネクタイを適度に緩めた彼は、妙な色気というかフェロモンを漂わせていた。よくよく見なくても男前である。レジを通り過ぎてドリンクコーナーに向かった彼は栄養ドリンクを持ってレジに戻ってきた。

「百五十円になります」
「袋はいい」

渡されたのは千円札。小銭無いのかよ!とか思いつつ八百五十円をお釣りで渡す。レシートをたたみながら五百円を募金箱に入れる手付きをぼんやり見ていた。どうやら彼はお金持ちらしい。



そのまま帰るかと思ったお兄さんはレジの前で栄養ドリンクのキャップを開けた。私の頭の上で疑問符が飛び交う。レジに寄りかかるように立つお兄さんの髪はさらさらで、思わず触りたくなった。きっと引く手あまただろう。

「お客様。出口はあちらです」
「深夜のコンビニのレジに女の子一人じゃ危ないだろ。どうせ客もいないし暇つぶしに付き合ってくれ」
「いやいやいや…お家に帰りましょうよ。きっと可愛い彼女がお兄さんの帰りを待ってますよ」
「残念。今はフリーだ…みたらし団子の匂いがする」

急に私の方を向いたお兄さんが私の髪を掬って軽く匂いを嗅ぐ。みたらし団子って…いやさっき食べてたけれども!花の女子高生からみたらし団子の匂いってどうなんだろう。虚しくてため息がでた。

「多分さっきまで食べてたんで、その匂いだと思います」
「職務怠慢だな」
「一応休憩中?だったからセーフ?です」
「別にクレームをいれようだなんて考えてないからそんな畏まらなくていい」
「いやお客様ですから」

気を抜くと馴染んでしまいそうになる雰囲気。ネクタイをさらに緩め上のボタンを外し始めた彼を警戒の眼差しでみると苦笑された。大丈夫。大声だしたらサスケくんが起きて(多分)助けてくれる。こないだナンパされたときもなんやかんやで助けてくれたもの。

「シフトが不安定なんだな」
「はい?」
「今週の水曜日に来たら居なかったから」
「普段は夕方勤務なので…」

深夜勤なんてサスケくんの我が儘がなければ絶対にしない。家に帰ってシャワー浴びてすぐ学校だなんて身も持たないし。サスケくんは一人暮らしをするために必死でアルバイトをしているらしいが、私はもう一人暮らしだし、親からの仕送りもある。ただ、もう少し贅沢したかったからアルバイトをしているだけだ。流石に仕送りだけではキツいものもある。だから先週彼から貰った五千円ははっきり言って嬉しかったし、貯金させていただいている。

「眠そうだな」
「まだ仮眠とってないんで正直言って眠いです」
「何分から仮眠なんだ?」
「あと一時間少しで」

もう少し頑張れと言ってカウンター越しに頭を撫でてくれる。その仕草がデジャビュのような感覚を起こすが、頭の悪い私ははっきりとした形を掴むまえにお兄さんが持ってきたコーヒーに気を取られてしまった。



夜勤、深夜勤と続いたサスケくんの体力は限界らしい。今日は体育もあったことが限界にトドメを刺したようで、昼休みというのに突っ伏して微動だにしない。お弁当は食べないのかな。例のごとくコンビニ弁当を買ってきた私はサクラ達と食べていたが、どうしてもサスケくんが気になったため自分の席に戻ることにした。ツンツンとつついても反応なし。呼びかけても反応なしだ。

「サクラ、サスケくん生きてるのかな、これ」
「疲れてるだけじゃない?温かいなら生きてるでしょ」
「むっ…低体温だ」
「あっ、ちょっと何サスケくんに触ってんのよ!」

サクラの馬鹿力によって恐ろしい勢いで飴玉が飛んできた。反射的にキャッチするも掌が痛い。掌に収まっていたそれはいちごみるく味だった。これは好意なのか悪意なのか。少し前、サクラに頼まれて仮眠中のサスケくんの寝顔を送ってあげたことがあった。その時は狂気乱舞していて、お礼にといちごみるくの飴を2パックもくれた記憶がある。バイト中もずっといちごみるくをなめていたため、渾名が一時期、いちごみるくだった。

「あっサスケくんおはよう」
「うるさい…」
「眉間に十円玉挟めそうなぐらい皺よってるよ」
「……」
「おやすみ」

再び机に突っ伏したサスケくん。やっぱり疲れてるのだろう。だが授業中に居眠りをしないのは偉い。尊敬する。今日はバイトが無いが、サスケくんに本屋に行こうと誘われていた。この分だとそれもキャンセルかな、と思って少し落胆してしまう。サスケくんに恋愛感情は抱いてないが、親しい友人の一人ではある。バイトも合わせれば友人の中で最も長い時間一緒にいる人物かもしれない。

「コーヒー買ってくるね」

先日のお礼だ。この暑さで購買の飲み物はほぼ売り切れているが、無糖のコーヒーだけは残っている。コーヒーを買うのは教師ぐらいだ。冷えた缶をおでこに当てながら目を閉じる。そういえばこのコーヒー、昨日のお兄さんがくれたやつと一緒だ。

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