01

現在時刻午前一時。すこぶる眠い。惰眠を貪りたいが、コンビニという場所がらこんな時間でもお客様がいらっしゃる。お客様、その言葉が指す人物はエロ本を読んでいる親父しかいないんだけど。眠い。睡魔に負け、レジに頬杖をつきうとうとしていると入店のチャイムが鳴った。びくりと体が跳ねる。ちらりと入り口を見て「いらっしゃいませ」とあげた声は心無しか掠れてて、少し恥ずかしくなった。

「すまない。包帯はないか?」
「包帯ですか?少々お待ちください」
「すまない」

来店したのは、スーツをパリッと着こなしたお兄さん。包帯は確か置いてあったはずだと思い、絆創膏やらが置いてあるコーナーに行くと丁度品切れだった。今から注文しても、届くには1日はかかるだろう。

「ごめんなさい。今品切れみたいで」
「そうか…」
「お怪我ですか?」
「あぁ…まぁ」

失礼だと思いながら彼の全身をさっと見回す。包帯というぐらいだから結構な怪我だと思う。しかし外傷は見当たらない。捻挫かな?私にじろじろ見られた彼は気まずそうに視線を逸らした。そして「声を出すなよ」と念押しして、ちらりと左側の背広を捲った。

「…っ!?」
「という具合なんだ」

切れた白いワイシャツに染みこむ赤い液体。刑事ドラマで見たことがあるそれは間違いなく鮮血である。というか今の彼の姿が刑事ドラマのワンシーンに近い。これはコンビニで応急手当てするよりも、病院に行った方が絶対にイイはずだ。困ったように笑う彼に一体何があったのか。

「びょ、病院に行かれた方がよろしいんじゃ…」
「あまり大事にしたくないんだ」
「いやでもこれどう見ても」

殺人未遂である。明らかに刺された?切られた?状態である。何したのこの人。ため息を一つ落として帰ろうとする彼を慌てて引き止めた。絶対この人病院にも警察にもいかない。てか消毒も無しに包帯だけで済まそうとしてたのか。

「仮眠室に救急セットあるんで持って来ます!動かないで待っててください!」

無表情に戸惑うが、とりあえず仮眠室に飛び込んで救急セットをひったくる。仮眠室で寝ているバイト仲間のサスケくんが寝返りをうつ気配がした。パカッと中をあけると、よし!マキロンも包帯もガーゼもある。店内に戻ると彼は先ほどと全く変わらない体制で立っている。本当に微動だにしてないその姿に少し笑ってしまった。

「どうぞ」
「なんだか悪いな…いくらだ?」
「仮眠室のなんで結構ですよ」
「それは悪い…受け取れ」

彼の財布から出たお札には天下の樋口様。それを差し出してきた彼を手をごと押し返した。いやいやいや五千円!?時給九百円の私にとっては約六時間分の給料だぞ。しばらく続く無言の争い。だが私の胸ポケットにお札が突っ込まれた時、あっけなく試合は終了した。

「口止め料だ。世話になった」

私の頭をぽんぽんとたたく。自動ドアが彼へと道を開けた。唖然とするなか、再びポンポンと、今度は肩を叩かれると先ほどまで寝ていたサスケくんが立っていた。眠そう。時計を見ると、一時三十分。

「交代の時間だ」
「あ、うん」

胸ポケットに突っ込まれたお札を不思議そうに見るサスケくん。何が起きたのか、正直私にもよく分からなかった。


■ ■ ■

深夜勤を入れたせいかやたら重たい瞼。一時間目の記憶もない私に呆れたらしいサクラが無言でノートを机に置いた。女神か貴方は…!窓際の後ろから二番目の席は下手したら一番後ろよりいい席かもしれない。しかし窓際の難点として窓から直射日光がさしてくるのはいただけない。さっき引いた黒いカーテンも暑さという点ではあまり役に立たなかった。

「暑い…」
「というより眠そうだな」
「サスケくんが深夜勤つき合えって言ったからじゃん。あたし二時間しか寝てないんだよ?」
「一時間目合わせたら三時間だろ」
「全然足りないよ…」

暑さにぼやけば、返答が後ろの席から返ってきた。同じ時間にシフトが終わったサスケくんの顔は至って平然としている。何故。私なんか隈がひどくてファンデーションまで塗ってるのに。世の理不尽さを文字通り、肌で実感した。今日はバイトがない。だから早く帰って早く寝よう。

「名前、起きろ。小南先生来たぞ」
「小南先生か…寝れないじゃん」

渋々立ち上がった私を小南先生はチラッと見た気がした。地獄耳?気のせいだと思いたい。ナルトが号令をかけるその声さえも寝不足の頭に突き刺さる。数学なんて苦手だし分けわかんないし、私文系だし。ふわぁぁああと遠慮なしにあくびをすると小南先生からの叱咤がとんだ。後ろの席からサスケの笑い声が聞こえる。



少女漫画にあるような、頬に冷たい缶を当てられる。だか、睡眠不足で何もかも鈍っていた私のリアクションはほぼ無反応に近いものだった。

「くれるの?」
「夜勤のお礼だ」
「…カフェオレェ」

冷たい缶に頬ずりするような仕草をすればサスケくんが頭を撫でてくれる。よくやるこの行動をみたサクラが「サスケくんと名前って兄妹ってかご主人様とペットって感じよね」って言っていた気がする。だが、残念。むしろご主人様と下僕だ。たまたま今日は優しかったが、大抵優しさの裏には何かあるんだ。コンビニのバイトに誘われた時も。私が入ったことでサスケくんには紹介料が入ったらしい。嫌になっちゃうわ。

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