03

名前を置いたまま大蛇丸の所へ行くとまるまる2日間寝ていたらしいということがわかった。通りで体が重いはずだ。鈍った体をほぐしがてら修行をしてもらい、夜自室に帰るとまだ彼女は寝ていた。首筋に手を当てて脈を確かめる。念のために生きているかを確認しただけだ。酷く脈は遅いがしっかりしている。寝返りを打ったのか、ズレている布団を直しがてら白衣をハンガーに掛けてあげた。好奇心からそのポケットを漁るとメモ帳と小瓶が2つ、むき出しの錠剤が5つとくしゃくしゃになった紙が出てきた。チラッと彼女が寝ていることを確認してくしゃくしゃの紙を開く。辞典の一部を切り取ったらしい其れの中身にただおどろくしかできなかった。


■ ■ ■


はるか昔に母に読んでもらった記憶がかすかにあるおとぎ話。勝手知ったる名前の部屋の本棚を漁っても無い。床に散らばる洋服を除けて探しているうちに、自分なんでこんなに必死なのかと疑問に思った。探すのを止めようと思った矢先に見つかる絵本。敷き布団のなかに半分隠れたそれは何回も何回も読み返されたようにくたびれていた。

「…サスケくん?」

肩をポンポンとたたかれる。声からして間違いなく名前だろう。どうしてここにいるのか不思議そうに尋ねる彼女。何故このタイミングで起きて、何故このタイミングで自室に帰ろうと思ったのか。

「あ、本借りに来たの?ごめんね〜サスケくんの布団占領しちゃって」
「別に」
「そっけないなぁ。大蛇丸様からサスケくんの修行見るように言われたんだけど、どうする?」

無言で立ち上がって歩き出すと名前も了承したように着いてくる。彼女は察するのがうまいから一緒にいて楽だ。部屋からとってきた本は寝る前に読もうと思う。


名前のせいで全身びしょ濡れになりながらもシャワーを浴びて半裸のまま出ると、寝台に彼女が腰掛けていた。薄暗い部屋のなか目を凝らして絵本を捲る。その鬼気迫る様子に声がかけずらくなった。何かを感じたように顔を上げた彼女と目が合う。

「サスケくん。寝る前に本読んであげるよ」
「……」
「嫌?」

困ったように眉を下げる彼女を見ると、やっぱり断れない。しぶしぶ布団のなかに入って彼女に背を向ける。読みたいなら勝手読め、といいたげな態度も気にしないで音読を始める。タイトルは「眠りの森の美女」こんな乙女思考なもの聞かされても何も思わない。なのに名前があんまりにも感情を込めて読むもんだからついつい真剣に聞いてしまった。

「―そして二人は幸せに暮らしました」

おとぎ話にはお決まりのエンド。お姫様は絶対に幸せになれるという不条理な結末。それが大嫌いだった。

「幸せなんか信じない」
「ハッピーエンドが幸せだとは限らないわ」

ポツリと呟くように言えば、予想斜め上を掠めた答えが帰ってくる。その言葉にやっと関心を持った俺は名前の方を向いた。やっとこっちを向いたね、と笑うその顔は暗闇でほとんど見えないはずなのに、やけに印象に残った。彼女の手元を見ると、あるはずの本は横に置かれたまま。通りでページを捲る音がしなかったわけだ。彼女は全てを暗記していたのだから。

「おとぎ話はね、全て第三者が書いてるの。その人から見て幸せでも本人達から見たら幸せとは限らないのよ?」
「つまり?」
「幸せかどうかは本人しか分からない。だからそれを確かめたくて女の子はおとぎ話のお姫様を目指すの。きっと幸せになれるはずだって」

諦めたような失望したような声で名無しは言った。ゆっくり立ち上がり、お休みなさいとだけ残して去ろうとする。引き留めなければいけない気がした。だが、どうしても彼女を引き留められなかった。

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