02

瞑想。意識を高めて集中力を上げているとノックも無しに部屋のドアが開く音がした。…誰だ。苛立ちを含めて目を開けると名前がいた。一気に襲う脱力感ともやもや感。彼女の手にはアルコールランプとフラスコが握られている。アルコールランプは灯り代わりに使って来たのだろうが、フラスコは何に使うのかわからない。入っていいかな?という名前に許可を出すと、フラスコを渡された。

「一時的なチャクラ増幅薬よ」
「今飲めと?」
「うん」

果たしてこれは成功作品なのだろうか。作りたてホヤホヤ感を醸し出すこれを飲むにはなかなかの勇気がいった。だが真剣に見つめる名前を前に断るのは良心が痛んだために、仕方なくフラスコに口をつけた。無味無臭。ゴクリと一息で飲み干した後も特に変化はなかった。

「…んー失敗かな?」
「(やっぱり試作品かよ)」
「百足の足入れたのが間違いだったかな?それとも蛙の内臓が悪かったのかな?」

名前の口から漏れる恐ろしい材料に胃がムズムズしてきた。再び瞑想をして名前を意識から締め出そうとしてもすぐ近くにある気配に胸が落ち着かない。先ほどフラスコを返すときに触れた指が熱を持ったように熱かった。瞑想を諦めて目を開けると名前は俺の隣に座っていた。

「何をしている?」
「時間差で効果でるかもしれないから見極めようと」
「……」
「だめ?」
「勝手にしろ」

少しでも違う答えを期待した自分が馬鹿みたいだ。こいつの頭のなかには実験と科学のことしか無いんだ。俺に構うのも、大蛇丸の命令と、いい実験体だから。瞑想は頭の中を空にするために行うものなのに邪念ばかりが浮かんでは消えていく。カサリと衣擦れの音がしたと同時に左肩に温もりと重みが加わる。

「おい」
「…すぅー」

寝ている。体が密着したことで名前からふんわりといい匂いがしてくる。気がつけば何かに操られるように名前の唇に自分の唇を重ねていた。柔らかいその感触に夢中になって舌まで入れていた。…全ては無意識のうちに。左肩を動かすと、支えのなくなった彼女の頭は胡座をかいていた俺の足にいい感じ収まった。膝枕をするかたちになってしまう事に戸惑いつつも嫌ではなかった。修行は一旦中断。少しくせっ毛な彼女の髪を梳いてやりながら、心拍数が異常なまでに高鳴っているいいわけは、先ほど彼女が持ってきた薬のせいにしておこう。

■ ■ ■

本人にはなんとなく聞きづらかったから大蛇丸に聞いてみた。「どうして名前はここにいるのか」と。興味深そうに俺を見た大蛇丸が答えた言葉を抱いたまま眠れない夜を過ごしている俺を心配したらしい名前が睡眠薬を持ってきてくれるが飲む気すらおきなくて、日に日に溜まるそれを見る度に鬱になった。鏡に写る自分の顔は隈も合間って一層目つきが悪くなっている。

「サスケくん…本当にまずいよ死相出てるよ。いい加減ちゃんと寝なさい!」
「放っとけ」
「放っとけないでしょ。あ、コラ!今日は修行禁止!」

珍しく徹夜したらしい名前に捕まり、強制的に自室に戻される。俺の背中を押す小さな手に触れたくて、自分の手を背中に回したが、何を勘違いしたのか彼女は「私を倒そうなんか百年早いんだから!」と言って俺の手を払った。我がもの顔で俺の部屋の鍵を開け、俺が寝台に向かったことを確認してから水と薬を持ってきた。ぐいぐいと押し付けてくるのを渋りながらも受けとって、彼女の監視のなか飲み干す。

「即効性の薬のはずなんだけどサスケくん耐性ついちゃってるから面倒なんだよね」
「…あんたは寝ないのか」
「ん?サスケくんが寝たら自分の部屋で寝るよ。徹夜はやっぱキツいしね」

ふわぁぁあと大きな欠伸をして如何にも眠そうに目をこする。その姿のせいか薬のせいか、だんだん瞼が重くなってきた。確かに眠い。少しの眠気がくると、どっと疲れがましてきた。目を閉じる。久しぶりに眠れそうだ。



目を開けると辺りは真っ暗。灯りのついていない地下は時間の感覚が狂うから困ってしまう。手探りで時計を探そうとしていると柔らかいものに手があたった。慌てて手を引っ込めて、丁度見つけたろうそくに火をつける。

「……」

やはりそこに居たのは名前だった。椅子に腰掛けたまま俺の寝台に顔を寄せて寝ている。その体制では内臓によくないだろう。仕方なく寝台のなかに引きずりあげてやると、寝やすくなったのか寝息が一層深まった。ろうそくのせいか疲労が色濃く出ている顔に一途の不安がにじみ出る。

―名前は病気なのよ。もうそろそろ限界でしょうね。治療法のない病だからこそ、自らで治そうとしているの。

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