いやもうこれは法的手段に出でも構わない領域だと思うんです。そう火影様に訴えてもサスケに甘い火影様は「それがサスケだってばよ!」と何の救いにもならないアドバイスをくれた。第一、火影様に口裏合わせてもらってサスケを騙したのに、結局火影様がバラしてしまった。お陰様で身体のあちらこちらが痛いし、精神的にも休暇を取れた気がしない。報告書ついでに愚痴っても仕方ないというか、火影様は新婚だから私の気持ちなんか分かってくれないだろうと諦めて部屋を出た。
「…なんでいんの」
「昼飯食いに行くぞ」
「い、嫌だ」
「来い」
ぼんやりしていたせいか火影室をでて直ぐの曲がり角で人にぶつかり、慌てて謝ればサスケだった。くるっと踵をかえせば飛んでくるクナイ。諦めて向かいあうと何やらご機嫌なサスケがいた。あらあら珍しいことで。いつもは仏頂面で眉間にシワが絶えないのにね。ぐいぐいと腕を引かれて歩くと周りの突き刺さるような視線に晒される羽目になる。だから嫌なんだよコイツと歩くのも出かけるのも。見慣れた定食屋に入ると、なるべく奥の人目につかないような席を選んで座る。
「なんで私が彼処に居るって分かったの?」
「愛の力だな」
「嘘でしょ」
「あぁ」
聞き出すのは諦めた。運ばれてくる鰻重をつつきながらため息をつくとサスケの顔が歪む。これで機嫌悪くしたらますます面倒なことになるな、と考えるとまたため息が出ていた。サスケの雰囲気が黒くなる。
「…ッ!!」
「そんなに俺が不満か」
「痛い、痛い痛い!!」
サンダルだから素肌なのに。サスケの足が私の爪先を踏みつけてくるその痛みに箸を持っている腕がふるふると震えた。慌てて足を引っ込めようとしても、無理矢理引っ込めたら間違いなく足の皮が剥けるだろう。そんなの嫌だ。
「俺がこんなに尽くしてやってるのに贅沢なやつだな」
「痛い!やめて痛いって!」
「部屋の鍵、もう替えても無駄だぜ」
やっとサスケから解放されたといってもジンジンと疼くような痛みは消えないし、涙で視界は滲んでいる。滲んだ視界でもサスケの指に引っかかっている鍵が私の部屋の鍵だと言うのは理解できた。いつの間に、と考えてもチャンスはいくらでもあったんだろう。食欲なんかさっきの衝撃でなくなっていたけれど残すとサスケが五月蝿い。食事代だけは毎回サスケ持ちなのだから。
「お前、午後からオフだろ」
「何で知ってんの」
「俺ん家来いよ」
絶対嫌です。
■ ■ ■
静かな空間にただ私が鼻をすする音と微かに漏れる嗚咽だけが響いていた。汗ばむ肌と内腿を伝う液体が気持ち悪くてシャワーを浴びたいのに腰に回された腕がそれを許さない。まだ飽きずに肩に噛みついてくるサスケのせいで首回りは真っ赤だろう。多分出血してる。ついでに縛られていた手首も皮が擦りむけているし、押さえつけられていた腕は痣が残っているだろう。抵抗した時に蹴られた太腿も、前に踏まれた足もまだ痛い。私ドMじゃないのに。
「あっ…嫌、だ!」
「前より成長したんじゃねェの」
「もう嫌、触らないでよ!」
後ろから伸びた手がいやらしく胸を揉み始めるせいで身体がどんどん反応していく。嫌なのに、嫌なのに。耳を舐めるサスケの吐息に肌が粟立っていく。それがサスケを受け入れているみたいで嫌だった。
「泣け」
ぎゅうっ、と蹴られた太腿をつねられると乾きはじめていた涙がボロボロ落ちる。痛い痛い痛い!身をよじって暴れてベットから落ちるように逃げればジャランと嫌な音がした。足首に足かせと鎖。もうこれいろんな限度超えてんじゃん。私、ノーマル。身体を隠すように腕を交差させてもサスケが鎖をクイッと引っ張れば全てが無駄な行動に終わるってこと。
「その鍵、欲しいか?」
「……」
「俺のこと好き、って言えたらいいぜ」
ふざけんな馬鹿野郎。むしろ嫌いだ、大嫌いだ。もっと甘い恋愛を夢見ていた私にとってこんなの恐怖と屈辱でしかない。サスケに屈するなんて私のプライドが許さないんだから。サスケの手にある鍵を実力で奪おうと掴みかかるが、簡単にあしらわれてしまう。こんのサディストが!いっそ首でも締めてやる、と思ってサスケの首に両腕をかけて押し倒したら、意外だったのかサスケの目がパチクリと瞬きした。
「調教が足りねェか」
サスケがしゃべるたびに喉仏が上下した。何を迷っているんだ自分、体重をかけるように腕に力を入れる。だが、直ぐに離さざるを得なくなった。サスケの右手から放たれたそれは千鳥。手加減はされているだろうそれも直接食らえば痛みに呻くこと必須で、本格的に泣く羽目にもなった。
「この傷、きっと消えないな」
嫁入り前の女の身体になんてことをするんだ。責任とりやがれ。愛おしそうに傷口を撫でるサスケにそう吐き捨てればニヤリと笑った。あ、嫌な予感。