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助手席に乗り窓の外を見ていたが、思い出したかのようにムスっとしだした名前にリヴァイは呆れの目をむけた。そういえば、こいつはなにか怒っていたなとリヴァイも思い出す。ホテルのごたごたのせいですっかり忘れかけていたが、リヴァイは名前を怒らせていたのだった。

「あー……なんだ、謝ろう。俺が悪かった」
「なにに対して謝っているんですか」
「お前の商売がうまく行っていたのはお前自身の実力だ。俺が奢っていた」
「………」

名前は窓の外を見ていた顔をリヴァイの方にむけた。だが、その唇は未だ尖っている。どうみても拗ねているようにしか見えない名前だが、リヴァイには彼女を宥める術が分からなかった。女は面倒なものだとエルドがグンタに言っていたが、こういうことだったのかとリヴァイは溜め息を吐いた。その溜め息を聞いて、自分の行いが子供じみていると自覚はしていた名前は尖らせていた唇を元に戻した。

「で、ケニーの居場所は掴めたんですか?」
「目撃情報があった。そこに向かっている。お前の方でも探してくれ」

名前の持っていたダイアモンドと裏帳簿は国税局に届けられた。警察も関わっている以上、隠蔽はできない。これで政治家生命を絶たれるであろうロッドはエルヴィンたちに任せるとして、リヴァイはケニーを捕まえるために署から出されたのだ。

「ケニーのことだからとっくに国外逃亡している気がしますけど」
「俺もそう思っていたが、出国記録も無い。それに昨日、ウォール駅の監視カメラに映っていたから在国しているのは確実だ」
「……あの地下格闘場にはいないんですか?」
「突入させたが、空だった」

右に曲がる旨のウィンカーを出したリヴァイは対向車が直進するのを待ち、なかなか途切れない対向車に無言で睨みを効かせた。名前は答えないリヴァイに再び苛立ちを募らせながらポケットに入れていたスマートフォンを取り出した。

「……ついさっきアニから、地下格闘場に通っていた警察内部の人間のリストを受け取りました」

名前の言葉にリヴァイの動きが一瞬遅れた。対面の信号機が赤にあり、右折可能を示す矢印式信号機が点灯するが、リヴァイは動かないままだった。後続車がクラクションを鳴らし、ようやくリヴァイはハンドルを切る。次から次へと湧き出してくる問題に頭が痛くなりそうだった。

「どういうことだ。お前、アニと連絡をとっていたのか?」
「アニと仲の良いミーナという女の子を通じて連絡が来たんです。これを渡す代わりにアニを逃してほしいと頼まれました」
「まさか逃すつもりじゃないだろうな」
「……」

自身も殺されかけたというのに名前はなんとも思っていないかのように表情を変えない。リヴァイは右ウィンカーを出し、車を路肩に寄せる。ハンドブレーキを掛け、座席に背を預けて腕組みをした。

「アニ・レオンハートは実行犯の唯一の手がかりだ。それに、そいつのせいで多くの人が犠牲になった」
「十分承知です。でも、あなたも地下競技場にいたならわかるでしょう。アニもそうするしか、なかったんです。私じゃ、彼女の生き方を変えることはできなかった」
「逃したところでも変わるものじゃないだろう。それに、お前が今、するべきなのは刑務所で罪を償わせることだけだ」

今話すべきことはこんなことではないとリヴァイもわかっている。ただ、裏切られたような苛立ちを直接ぶつける事ができなかったのだ。名前はダッシュボードの上に両腕を置き、そこに頭を乗せる。伸ばされたシートベルトが軋んだ。

「……お前が手配したってことは、何時にどこ発の飛行機なのかっていうのも知っているはずだな?」
「取引です。アニを見逃すか、警察内部の不祥事を見逃すか。二択です」
「お前が協力すれば、どちらも手に入る……お前、いい加減にしろよ」

駄々をこねているようにしか思えない名前に気が長いとはいえないリヴァイの堪忍袋の緒が切れた。ダッシュボードに突っ伏す名前の頭を押さえつけ、固いダッシュボードに押し付けるように力を食わせる。名前の食いしばった歯の間からうめき声が漏れた。

「お前のしたいことは何だ。なにがしたくてお前は今ここにいる」
「私は……ただ、アニにこれ以上辛い目に遭ってほしくないだけです。ケニーとロッドには罰を受けて苦しんでほしいけれど、アニには助かって欲しい」

名前のおかしな行動に納得がいったリヴァイは手を離した。アニ・レオンハートの名前を警察に漏らしたのも、ケニーに消される前に保護してもらおうと画策しての事だったのだろう。自分と接点を作り、元々逃がすつもりだったから飛行機のチケットも用意していたのだろう。

「アニ・レオンハートの身柄の安全は俺が保証しよう。エルヴィンとピクシスに掛けあってやる。裁判でも優秀な弁護士を俺が雇ってやろう。俺ができることは全部やってやる」

リヴァイはそう言い切った。名前は赤くなった額を少し上げ、リヴァイを半ば睨むかのような目で見た。信用していないのだろう。リヴァイも睨み返すように名前を見た。腹の探り合いは時が止まったかのような錯覚を二人に生み出す。その沈黙を警察無線が破った。

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