41

 
火災報知機が鳴り、ホテルにいる者たちの視線が自然と上を向いた。そして間髪開けずに非常ベルが鳴り響く。非常事態の宣言に、リヴァイの動きも、ケニーの言葉も止まった。

「どうします?部屋に戻りますか?」
「これがただの火災ならいいけどな、俺は嫌な予感がするんだ」

流れるような手つきで胸元から拳銃を取り出したケニーはリヴァイのいた扉に向かって銃を乱射した。壁に身を隠し、銃弾を避けたリヴァイは出入口が一つしかないこの状況に舌打ちを落とした。穴だらけになった扉を蹴破ったケニーがゆっくり部屋に入ってくる。リヴァイはその頭に拳銃を突きつけた。

「おう、ケニー。また会ったな」
「お前なんでトロスト区のマンションに行かねーんだ。お前らを花火として打ち上げる俺の計画が破綻しちまったじゃねーか」
「どっかの誰かが交番で花火を打ち上げたせいで予定変更になったんだ」
「ああ、悪い。それは俺たちのしわざだ」

ケニーの後ろにいた女はケニーの指の指示を受けて上へ向かった。ケニーの銃口もリヴァイの腹にむけてある。銃声を聞きつけたのか、先程よりも喧騒とした声が聞こえてきた。

「リヴァイ、お前がいるってことは、あの馬鹿女も居るってことだよなあ」
「そうだな。俺は名前に逃げられて、追って来てここにいるからな」
「俺はこの騒ぎ、あいつの仕業だと思うが、どう思う?」
「奇遇だな。俺もそう思う」

ケニーが銃を仕舞った。苛立ったように長髪を掻き、しかし、楽しそうに笑みを浮かべた。リヴァイは銃をケニーにむけたまま静観する。放送が入った。現在原因を確認中のようだ。アナウンスの後ろから二十階で煙が!と切羽詰まったような声が聞こえている。これでは余計に混乱を招くだろう。

「悪いなリヴァイ」

リヴァイの意識が放送に取られたことを察したケニーはリヴァイの喉に拳銃を握った拳を叩き込んだ。完全な不意打ちにリヴァイは殴り飛ばされ、その衝撃で指がトリガーを引いた。乾いた発砲音が一回だけ暗い部屋に響く。喉を押さえ、呼吸困難でむせ返りながら立ち上がったリヴァイの前にケニーはおらず、入り口付近には血痕だけが残されていた。

「ケイジ、三十二階に向かえ。俺も行く。ニファは監視に残しておけ」

リヴァイは痛む喉を押さえながら立ち上がった。非常事態でエレベーターは止められてしまっている。仕方なく客室階段を使おうと思ったが、混乱して上階から降りてくる客のせいで上れそうになかった。ならば、と従業員用階段を使う。マガジンを新しいものに変え、リヴァイは呼吸を整えて階段を駆け上がった。


■ ■ ■


名前の作戦は上々だったようだ。非常ベルが鳴り響いてすぐに、扉の中から一人のSPが出てきた。シーツの入った運搬カートを押す従業員姿の名前を目に止めると状況を説明するように言った。

「わ、私も詳しいことはわからないのですが、誤作動なら非常ベルまで鳴らないと思いますし……念のため、避難の準備をお願いいたします」
「……焦げ臭く無いか?」
「………そういわれて見れば…至急確認いたします」

名前はポケットの中から取り出したスマートフォンをいじり耳に当てた。もちろん電話をかける振りである。運搬カートの中、 ミカサと共に、シーツの下に隠れているエレンはずいぶんな演技だと舌を巻いた。持っていたたばこを全て燃やし煙と焦げ臭さを演出したのも名前である。

「わかりました。はい、はい。お伝えします」

顔を青ざめさせて名前はSPの男を振り返った。

「二十階で火災が発生したようです。避難のご準備を!」
「ルートはあるのか?」
「恐らく下の階も大混乱でしょう。ここの部屋には特別ルートがあると聞いているのですが、鍵は宿泊者様がお持ちのはずです。なければ、私も開けられますが……」
「緊急だ、入ってくれ」

はい、と頷いた名前は扉を開けたSPの後ろでカートを軽く蹴った。エレンはちょうど尾てい骨辺りを蹴られうめきそうになったが、慌てて口を押さえた。カートを押したまま部屋の中に慌てて入るSPの後ろから中の人間が二人見えた。名前は部屋に入りゆっくりと扉を閉め、チェーンをかけた。

「お前、なにを……」

さらに奥の部屋への鍵を開けようとしていた男が振り返り、名前の行動を咎めようと口を開いたところで名前は目の前にあった膝丈の机を踏み台に、跳躍した。勢いのついた名前は全体重を足裏に乗せて男の腹に飛び蹴りを食らわす。慌てて銃を抜いた男達が名前に向かって構えたところでカートから抜けだしていたエレンが背後から相手の腹部に腕を回した。そして見事なジャーマン・スープレックスを決める。唖然とする最後の男にはミカサが踵落としを決め込んだ。

「鍵はどっこかなー」

名前は伸びたSPの手足をシーツで縛り、その懐を漁った。カードキーを取り出し、奥の扉へと近づく。二枚のカードキーをスキャンすると電子音が鳴った。ドアのロックが解除され、エレンはつばを飲み込んだ。政治家襲撃の文字だけ見ればまるでテロリストだ。それも、顔を隠していないテロリスト。間抜けすぎると思った。名前はエレンとミカサに待機するよう言い、扉を押し、銃を室内にむけた。

prev next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -