ニファ達が来るのをモニター室で待っていたリヴァイは、エントランスに現れた二人組を見て目を細めた。金髪の青年に黒髪の少女。間違いない。トロスト区の名前の家に来た二人組だった。どうやら部屋を取ったらしく、受付で鍵を受け取った。
「なにを企んでいるんだ……」
名前からはあの三人が一体何をしているのかは聞き出せなかった。だが、彼女の口から冗談のように武器屋だとか情報屋だとか物騒な言葉がぽんぽんと出てきたことを考えれば、年端もいかないような子供だとしても、ろくなことをしていないように思ってしまう。リヴァイのスマートフォンがバイブによって唸り声を上げた。ニファ達が着いたようだ。怪しまれないようにとビジネスマン風を装っている彼らをリヴァイは招き入れた。
「名前と、その関係者がこのホテルに潜伏している。関係者の二人は部屋を取った。部屋は受付で聞け……その部屋と、最上階のスイートルームを重点的に見張ってくれ」
「承知いたしました。エルヴィン指揮官から事情は伺っています。あと、防弾チョッキです」
「ああ。ここは任せた。俺は監視カメラがないところを見回ってくる」
リヴァイの格好にようやく納得がいったように彼らは頷いた。監視は任せて大丈夫だろう。ケイジ達は自分で判断して動ける人間だ。リヴァイが指揮をとらずとも大丈夫だと判断し、リヴァイは部屋を出て行った。今更ながら、名前はどうして逃げないのだろうと疑問に思う。彼女は巻き込まれたと言っていた。名前個人にはレイス氏への恨みもなさそうな様子だった。
「……本人に聞くか」
厨房を覗き、クリーニングルームを覗き、リネン室も覗く。どこかに隠れているかもしれないとリヴァイは、洗濯機の中まで注意深く観察した。そのまま、暗い洗濯機の中を覗き込みながらリヴァイは考えた。彼女の目的は、レイス氏の悪行を世間に公表することだろうか。ならば、リヴァイを利用したほうが早い。リヴァイは警察組織の一員だ。ピクシスやザックレーとのパイプもある。リヴァイは人の気配を感じて扉の影に身を潜めた。
「アッカーマン部長。いい加減にしないと怒りますよ。あなたの今のお仕事は護衛でしょう」
「だからこうやって怪しい奴がいないか見張っているだろう?見張りも護衛の仕事の一つだ」
「三時間以上同じ場所をぐるぐると周るのは見張りというより徘徊ですね。もうお年ですか」
「俺に年なんか関係ねーよ」
その声に一層警戒心を高め、リヴァイは息を殺した。扉と壁の隙間からわずかに見える男の姿はつい昼間に会ったばかりの男だった。
■ ■ ■
監視カメラの映像を手に入れたらしいアルミンは名前に言われたようにスイートルームの廊下を監視していた。先ほど部屋から背の高い男女二人が出て行った。それを写真に納め、エレンに送った。エレンはそれを名前に見せているだろう。彼らの姿はエレベーターの中に消え、三階で降りた。
「アルミン、お前たちの居る部屋の火災報知機ってどのタイプかわかるか?ってエレンからメッセージが」
「火災報知機の種類?ちょっとまってくれよ。えっと、たぶん煙感知型火災報知器だね」
「名前さんから電話が来た」
ミカサがスマートフォンをスピーカー状態にした。アルミンもスマートフォンから聞こえてくる声に耳をすませた。
「さっきの写真ありがとう。この男、すごく厄介よ。殺し屋みたいなものだから。だから、こいつが部屋にいるときは絶対に入れない」
「今のうちに行くってことですか」
「そう。火災報知機を作動させてエレベーターとかを止めて頂戴。部屋に加湿器と霧吹きがあるでしょ?それを使って火災報知機を作動させて部屋から出て……確か十階に保冷室があるから、ドライアイスかなんかを撒いていかにも火事ですって演出してちょうだい。で、二十三階まであがってくるついでに、非常ベルも鳴らしといて」
「二人で大丈夫ですか?ミカサだけでも先に行かせましょうか?」
「じゃあ、ミカサちゃん来てくれる?エレンくんだけじゃ頼りなくてさー」
名前の後ろからエレンの反論が聞こえた。ミカサはアルミンを見えて頷く。ハンガーにかけてあったコートのポケットに小型ナイフを仕込んだミカサはコートを羽織り、地図を眺めた。
「非常事態になれば、きっと抜け道を使うわ。部屋から直接つながっているって噂は聞いていたから、たぶん監視カメラには映らないと思う。アルミンもすぐ出られる準備をはしておいてね」
名前は電話を切った。ミカサは部屋を出て行く。一階まで降りて外の非常用階段を使うらしい。アルミンも撤収の準備を始めた。フロントで空き室状況は盗み見ている。ベランダを使ってこの廊下の突き当りの部屋に忍び込もう。パソコンを開いたまま持ち、アルミンもベランダの硝子扉を開けた。