36

 
現場から少し離れた植木の側のベンチに腰掛けた名前にリヴァイはカフェオレを持ってきた。よく気が利く男であると名前は思う。缶の蓋を開け、甘いそれを喉に流し込む。名前の前に立ったリヴァイは自分もコーヒーを飲みながら現場一帯を眺めた。

「お前が行っていた武器屋が爆弾を売った可能性はあるか?」
「あそこは密輸した銃とかが専門なので。でもC4だけは取り扱っています」
「原材料だけか」
「ええ。それより何かわかりました?」

爆発の様子から爆弾が爆発した位置が分かるという。そちらの知識が疎い名前は頷きながらリヴァイの見解を聞いていた。

「カラネス区の交番にも不審物が届けられたらしい」
「私の事務所にも爆弾が置かれていました。小さなものだったけれど」
「それはどうした?」
「クッキーの缶に入っていたので、私の部下が間違えて開けてしまって、まあ時限式だったので慌てて液体窒素のスプレーを掛けて冷凍庫の中に入れました」
「………ずいぶん手荒い処理だな」

仕方ないじゃないかと名前は缶を爪で弾いた。だがあの処理で時計は止まったし、爆発はしなかったのだから間違ってはいなかったのだろう。とっさの判断にしては良かったようだ。

「その爆弾はまだ冷凍庫の中か?」
「はい。あれから開けていませんから」
「…爆弾処理班を派遣していいか?」
「………私の事務所に、ですか?」
「爆弾の特定ができるかもしれないからな」

見られて困るようなものは置いていないが調べられて困ることはたくさんある。目を泳がせる名前にリヴァイはため息をついた。

「冷蔵庫ごとどこかに運んでそれを見てもらうのではダメですかね」
「………名前、俺が口を出せることではないが、お前、もう潮時じゃないのか」
「………」
「この事件が解決したら、もう足を洗え。俺が知ってしまった以上、もう見て見ぬふりはできない」
「今すぐにって言わない辺り、嫌な人ですね」
「悪いな。こういう性格なんだ」

事件は解決したいが、犯罪に囲まれる名前を見逃すこともできない。我儘だと分かっているが、名前にはそれを理解してもらいたいと思った。だが、リヴァイの言い分を鵜呑みにできるほど名前は寛容な性格をしていなかった。

「それに、お前があの街で上手く商売できていたのは俺と組んでいたからだろう」

名前は言葉を失った。顔色を白くするのをリヴァイは図星だと受け取った。名前はうつむき唇を噛み締めた。両手で握っていたスチール缶が凹んだ。リヴァイはその様子を黙って見ていたが、顔を上げた名前の表情に怒りが浮かんでいるのを見て驚いた。

「……私が手を貸すのはここまでです」
「あ?おい、待て」

名前は立ち上がり、リヴァイの横をすり抜けるようにして歩き出した。その後を少し遅れてリヴァイは追った。背中から怒りがにじみ出ている。リヴァイの言葉が名前の逆鱗に触れたことは分かったが、だからといってこうも身勝手に行動に示されては困る。リヴァイは名前を止めるためにその腕を掴んだがすぐに振りほどかれた。

「おい、名前!」
「ついてこないで」
「お前は重要参考人だ」

振り返り、名前はもう一度リヴァイを睨んだ。そしてリヴァイの顔の前にスプレーを出した。とっさに顔を背けたリヴァイに背をむけ、名前は勢い良くかけ出す。慌てて後を追うリヴァイが追いつく前に、名前はタイミング良く乗客が降りたタクシーに駆け込み、扉を閉めた。

「とりあえずすぐ出して!戸を閉めて!」
「オイ!お前ふざけんな!」

追いついたリヴァイは窓ガラスを叩いた。名前は中から睨みつけ、運転手にすぐ出すように言う。しつこく扉を開けようとするリヴァイに運転手は戸惑うが、名前の剣幕に押されてゆっくりと車を発進させた。警察手帳でタクシーを止めようとしていたリヴァイだが、一足遅く、手を離した隙に名前を乗せたタクシーは左折をし、見えなくなった。

「リヴァイ」
「…エルヴィン」
「逃げられたようだね。追ってくれて構わない。そこの車を使ってくれ」

エルヴィンは止められている黒いスカイラインを指さした。車の側に待機していた警察官がリヴァイに鍵を差し出した。それを受け取ったリヴァイだが、名前がどこへ向かったのかはわからない。むやみに探しまわり、時間を無駄にしたくない。その想いを汲み取ったかのようにエルヴィンはリヴァイの肩に手を置いた。

「名前を逃したのは俺の責任だ」
「ああ、そうだな。リヴァイ、お前は少し頭を冷やした方がいい。仲間が重症を負って心乱れるのはわかる……それともあの女だからか?」
「なにを言っている?」
「あの女が関わっていると知った時からお前の様子はおかしかった」
「そんなことはない」

珍しくエルヴィンが強い口調で言ったからか、リヴァイもそれ以上の反論をしなかった。エルヴィンは手に持っていたデバイスをリヴァイに渡した。

「あの女のコートに発信機を仕込んである。追ってくれ」
「……ああ」

リヴァイはマップの上を青い点が動くのを眺めながら返事を返した。車に乗り込み、発進のためにウインカーで合図をする。リヴァイがGPSを追って辿り着いたのは有名高級ホテルだった。

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