18

  
エルヴィンに、付き添いはいらないと言ったリヴァイは救急車にてシーナ病院に搬送された。マリア銀行の次はシーナ病院。これも何かの縁かとリヴァイは一人でに笑う。リヴァイは連れて行かれた病室のなかで頭に巻かれた包帯を指で撫で、ベッドのサイドテーブルに置かれた自分の手荷物を眺めた。何もかもボロボロだ。時計はひび割れ午後三時を指したところで止まっている。スマートフォンの画面は粉砕し、本体もねじ曲がっており、自分が受けた衝撃がどれほどのものだったのか改めて再確認した。よくコレで五体満足でいられたものだ。持ち物からテレビに視線を写す。緊急特番はマリア銀行の報道を続けていた。リヴァイは入院着のまま立ち上がり、ロビーの公衆電話に向かった。幸いなことに財布の中身の十円玉は無事である。

「ハンジ、俺だ」
「…リヴァイ!?よかった元気そうだね。ニュース見たよ」
「ああ。お陰で散々だ。悪いが俺のロッカーから予備の着替えを持ってきてくれ」
「リヴァイのロッカー?ちょっとまってね」
「番号は一二二五だ。紙袋が入っているだろう?それをそのまま持ってきてくれればいい」
「ああ、あった。分かった。すぐに持っていくよ。場所は?」
「シーナ病院の二〇五だ」
「おっけー」

ハンジはそう言って電話を切った。先ほどシャワーを借りたおかげでずいぶんすっきりとしている。検査の結果、頭に異常はなさそうだ。ならば現場に戻りたい。部下の安否もまだわかっていないのだ。リヴァイは病室の窓の外を見続ける。ハンジならバイクを転がしてくるだろう。二十分ほどするとリヴァイの予想通り、銀と黒の大型バイクが病院内に止まった。ヘルメットを着用しているが、間違いなくハンジだろう。趣味の悪いバイクだとリヴァイは笑う。

「悪いな、ハンジ」
「いや。はい、これ頼まれていたもの。あと、スマートフォンのバックアップは取ってある?」
「PCで同期してある」
「microSDは?」
「無事かどうかイマイチわからん」
「見せて」

ハンジはリヴァイから大破したスマートフォンを受け取った。硝子で怪我をしそうだ。爪の間に破片が入らぬようポケットに入っていた打ち手を着けてハンジはmicroSDカードを取り出そうとする。中にあるのだ。だが、本体が曲がっているために取り出せない。

「受付でピンセットとドライバー借りてくる。その間に着替えちゃってよ」
「ああ」

ハンジはリヴァイのスマートフォンをハンカチに包み、部屋を出て行った。リヴァイはハンジから渡された紙袋から自身の着替えを取り出した。入院着を脱ぎ、スーツに腕を通す。宿直用にと置いておいてよかった。黒いベーシックなスーツにグレーのネクタイを閉め、カフスをしっかり嵌めた。

「リヴァイ。取り出せたよ。とりあえず私の予備のスマートフォンを貸すから、これでエルヴィン達と連絡とりなよ」
「悪いな」
「で、現場に戻るんだろ?タクシーで行く?それとも私のバイクに乗ってく?」
「ノーヘルで捕まるのはご免だ」
「大丈夫。シートの下に予備のヘルメットがあるから」

リヴァイは頷いた。退院手続きをしている時間も惜しい。書き置きだけ残してリヴァイはハンジのバイクの後ろに乗った。ハンジはスピード狂で、普段ならば絶対に乗りたくな運転手の一人だが今日ばかりはこのスピードがありがたい。マリア銀行前についたリヴァイはハンジに礼をいい、黄色いテープをくぐって中に入っていった。


■ ■ ■


エレンとミカサとアルミンはリビングのテレビの前で立ち尽くしていた。エレンの口はずっと開いたままだ。口内の渇きを癒すように唾を飲み込んだ音が大きく響いた。

「まあ、すごい偶然だよね」

アルミンの戸惑うような声をきっかけに、エレンは倒れるようにソファーに座り込んだ。ミカサは机の上に置かれた布袋をじっと睨む。

「銀行が倒壊しなかったのが奇跡だな」
「本当にね。エレン、ちゃんと擦り傷の手当てしなきゃダメだよ」
「あ、あぁ」

テレビに表示される死傷者、重傷者、行方不明者の文字が揺れる。俺たちのせいでは無い。だが、本当にそうだろうか。未だ夢心地のエレンの肩をミカサが揺すった。

「暫くは大人しくしておこうね」
「そうだな。あと名前さんに頼んで情報集めてもらおう。こいつら、この街の人間じゃないだろ」

エレンは防犯カメラの映像に写る覆面の人物を指差す。ナンバーは剥ぎ取られていてわからない。銀行前に止まった一台の黒いバンの両側の扉があき、そこから出てきた小柄な人物は筒のようなものを銀行に向ける。その筒の先端の部分には砲弾と思われるものがついていた。バンの反対側のドアからバックファイヤーが噴き出す。響く砲声に、衝撃波が周囲の人物だけでなく建物までを揺らした。爆音が響き、銀行の窓が割れる。爆弾で金庫を破壊した自分たちが言えた義理ではないが、目の前の映像が現実に起きたこととは思えないのだ。

「…予想外の展開だったけど、僕達に抜かりはないよ。大丈夫」
「そうだな」
「アルミン、これはどうする?」

ミカサは机の上の宝石を指した。うーんとアルミンは悩む。

「冷蔵庫の中にでもいれておこうか」

ミカサは頷いた。エレンは深いため息を吐く。エレンがC4爆弾の雷管を作動させた瞬間、前と同時に上からの爆音が何度も響いた。何事かと慌てふためくエレンと対照にミカサとアルミンは冷静に本来の目的を実行した。自分が情けなく思ってしまう。再び小さくため息をついたエレンの手を取り、ミカサは無言で消毒液を振りかけた。

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