13

 
リヴァイの脅しと、ファーランの投げかける誘惑に耐え続けていたサシャだが、二時間に渡る葛藤の末、ついに敗れた。「話しますから、食べさせてください」と蚊の鳴くような声でサシャは頼む。それを聞いてリヴァイは目隠しにしていたネクタイを取った。イザベルはサシャの前からすっかり冷めてしまった親子丼を取り上げ、電子レンジへと入れる。鈍いモーター音が鳴り、漂う匂いに釣られるようにサシャは話し始めた。

「名前が何をしようとしているのかは、私も知りません。名前と行動していたことはありますが、それは二度ほど、一緒に仕事をしただけです。今、名前が仕掛けている仕事には直線関与していません。ただ、仕事を頼まれただけなんです」
「何を頼まれた?」
「……マリア銀行の地下金庫の暗証番号を調べました。あと、盗聴器を仕掛けました」
「名前が行きそうな場所はマリア銀行ってことか」

リヴァイはマリア銀行と手帳にメモした。名前は逃亡している。資金が必要になることからも、銀行に立ち寄る確率は高いように思える。

「は、早くご飯をください……」
「ほら、慌てずに食えよ」

チン!と電子レンジはその中に収めた食材が温まったことを告げた。イザベルは親子丼を取り出し、ついでに割り箸も割ってやる。手錠を外されたサシャは脇目もふらず親子丼に食いついた。リヴァイとファーランはサシャを見張る。ぺろりと親子丼を完食したサシャに再び手錠をかけたファーランはこの後どうするんだとリヴァイに聞いた。

「こいつをこのまま放すわけにもいかない。名前を捕まえるまでここで大人しくしていてもらうしかない」
「そんな!」
「黙れ」

こんなことが許されるわけがないと騒ぐサシャに、リヴァイは取引だと持ちかける。盗聴器を仕掛けたことと、暗証番号を盗み出したことはサシャ自身が自白したことだ。それを聞かなかったことにしてやろうとリヴァイは言う。その言葉にサシャは言葉を飲み込んだ。

「盗聴器を置いただけでは罪に問われないとのことですが……」
「置いただけではな。お前、置くのに侵入しているだろ。病院事務室への不法侵入罪だ。それに、盗聴した内容を第三者に漏らせば、電波法違反だ。まだあるぞ。知り得た情報で万が一誰かをゆすっていたら恐喝罪になる。お前は何個の法を犯しているんだろうな?」
「くっ……」

リヴァイはどうする?と再び尋ねる。サシャとてまだ刑務所生活はしたくない。ここに留まるだけならば、とサシャは考えた。

「せ、誓約書を書いて下さい!」
「ああ。いいだろう。ファーラン、作成しておけ」
「お、おう」

サシャは二十四時間の監視下に置かれることになった。リヴァイはサシャからの情報を班に持ち帰ると行って交番を出た。イザベルをサシャの監視におき、ファーランは交番の外に見回りにいくことにした。机の引き出しから自転車の鍵を取り出そうと、ファーランが身をかがめたとき、遺失物の文字が目に入った。

「あ……?」

黒いスマートフォン。サシャの持ち物ではないもの。その機種。ファーランは屈めた腰を伸ばし、棚に納められた遺失物一覧ファイルを手にとった。紛失届を最新から遡っていく。財布、鍵、マフラー……スマートフォン。マルコ・ポッドの名前。

「あった……」

ファーランは開いたままのファイルを片手に先ほどまでいた奥の部屋へと入る。机の上に出ていた黒いスマートフォンを手に取り、機種を再確認した。間違いない。同機種だ。目印のストラップホールの破損も一致している。

「おいお前、このスマートフォンはどこで手に入れた?」
「駅前の植木のところに落ちていたのを拾ったんです。誰のかは知りません」
「本当だな?」
「はい!」

サシャは元気よく返事をした。ファーランは疑うようにサシャの目を凝視するが、サシャはキラキラとした目で答える。怪しさ満点の瞳だが、イザベルもファーランもそれ以上の追求は止めた。このスマートフォンの本来の持ち主が、何か犯罪に関わっているのならば、交番に落としたと届け出たりしないだろう。ファーランはそう結論つけて、マルコ・ボッドの連絡先に電話をかけることにした。

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