04

 
冬が近づき、厚手のコートを羽織る人も多くなった。名前もトレンチコートを羽織り、スカートの下にタイツを履いた。コートの右ポケットの中ではスマートフォンが震えている。画面を見るまでもなく、発信者はわかっている。この電話番号を知っているのはリヴァイしかいない。歩道橋の真ん中で名前は通話ボタンを押した。

「もしもーし」
「お前っ……今どこにいる」
「今ですか?ちょっと遠くまで出てきていまして。何か御用でも?」
「ああ、お前が殺人事件の関係者として捜査されている。話が聞きたい」
「あー……どの事件ですか?」

心当たりが何件かあった。名前は職業柄、暴力団とも関わるし、不法入国者とも関わる。リヴァイもそれを承知して名前と関係を結んでいたが、こういったふとした時に改めて彼女の立ち位置を確認することになると、どうにも歯がゆくなる。

「昨日、お前がトロスト街のレストランで密会していた男が今朝遺体で発見された」
「あぁ、彼ね……その件だけど、首を突っ込まない方がいいと思いますよ。あ、でも、一つ聞きたいことがあるんですけど」
「待て、俺の質問に先に答えろ。お前はあの事件に関わっているんだな?」
「その捜査、表立っては行っていませんよね。指示を出したのは誰ですか?」

埒が明かないとリヴァイは唇を噛んだ。名前はあの事件についてリヴァイに話すつもりはないようだ。いつも彼女はそうだ。情報提供者と言っても全てを話そうとはしない。ちょこちょこと情報を小出しにしては、リヴァイを踊らそうとしているような素振りを見せる。彼女のヒントを手がかりに幾つもの事件を引っ張ってきたが、いい加減じれったい。リヴァイは呼吸を落ち着けた。

「名前、お前が巻き込まれているなら、俺は助けになりたい。公安官が三人殺されていると考えると、これはただの殺人事件ではない。俺にできることは何だ」
「……私、結構あなたのスタンスが好きですよ。だから今までちょっかいを出してきたんですけど……エルヴィンさんにも伝えて置いてくださいな。この事件からは手を引いたほうがいいですよって」
「名前、お前も狙われているんだろう。今すぐ来い。俺がなんとかしてやる」
「相変わらず勘だけは鋭くて頼りになる男ですね。そういえば、昇進蹴ったらしいじゃないですか。ダメですよ、社会的地位は基本的にペンも剣も勝てない最強の矛なんですから。今度打診されたら素直に頷くことをおすすめします」
「……今日はいつも以上に舌が回るな」
「で、指示を出したのは?エルヴィンさんが直接出していないってことは……まあ、ピクシス警視総監かな」

名前の唸るような声が聞こえたと思ったら、電話は切れた。慌ててかけ直すが電源が入っていないため繋がらないという自動音声が流れる。仕方なくリヴァイは電話を切り、録音した先ほどの音声をケイジに送った。音声の解析で場所を特定させようと考えたのだ。リヴァイも警視庁に戻る。先ほどの会議室をあけるとペトラ達が手帳の解析を続けていた。

「女の正体が分かった」
「えっ」

部屋に入るなりリヴァイは言い放った。あれだけの手がかりで見つけたのか、と皆目を見開く。リヴァイは名前を売るつもりはないし、彼女からの忠告を聞くつもりもなかった。先ほどの電話から察するに名前は次の被害者候補の疑いがある。職業、情報屋だ。知ってはいけない何かを知ろうとし、知ってしまったことで命の危険にさらされているのだろう。これからは名前のヒントはナシだ。リヴァイは自分の力で名前を助け出すつもりである。張り詰めた空気を出したリヴァイに彼の班員は背筋を伸ばした。

「女の名前は名前。本名かどうかはわからん。彼女はウォール駅周辺を縄張りにしている情報屋だ。本人も公安官との接触を認め、彼らの他殺を口にしている。最重要人物として一刻もはやく見つけ出し、身柄を確保しろ。捕まえ次第、俺のところに連れて来い」
「行動範囲の目安はありますか?」
「少し前までアルバイトをしていたバーがある。オルオとペトラはそっちを当たってくれ」
「はい」

リヴァイは名前のアルバイト先であり、二人の密会場所でもあったバーの住所を書いて渡した。ペトラとオルオが部屋から駆け出す。リヴァイの携帯がケイジからの着信を告げた。

「先ほどの録音データですが、後ろの音に選挙カーらしきものが入っていましてね、えっと、ロッド・レイスさんです。彼の街宣車の通った道が分かれば場所の特定もできると思います」
「わかった。忙しい中悪いな」
「いえ、またなにかあればご連絡下さい」

リヴァイはグンタにロッド・レイスの街宣車の通行履歴を確かめるよう指示を出した。事務所に問い合わせればすぐに判明するだろう。グンタがロッド・レイスの事務所に電話をかけている間にエルドは自身のツイッターの検索機能を使い、大体の位置を調べていた。それをリヴァイに渡す。十分前の彼女がいたのは恐らくトロスト駅周辺だろう。グンタがさらに詳細な住所をメモに書いて渡した。

「手帳から何かわかったか?」
「あまり使われていなかったようです。スケジュール帳というよりメモ帳ですね。スケジュールとしては時間しか書いていませんね。電話番号も頭から六桁しか書いていませんし。あとは走り書きを一つ一つ追っています」

グンタが言うようにカレンダーの面は時刻しか書かれていなかった。次のページにはメモが書いてある。数字の羅列があったと思えば、アルファベットが単体で書かれているページもある。さすがに機密事項をそのまま書くことはしないのだろう。手帳そのものに触れぬよう打ち手をはめて一枚一枚チェックをしていく。二人の手帳が書き始められているのは今年の六月からだ。恐らく、同じ任務に同じ時期から着任したのだろう。なにかなかったかとリヴァイは自らの記憶を必死に掘り下げた。

prev next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -