30

 
尋問を受けながらライナー達の覚悟を知った。彼らは、自分たちらしく生きて、その生を全うしたいだけなのだ。その手段として、革命と言っていた。名前は革命を認める訳にはいかない。彼らを外に出すにあたっても鎖が必要だ。彼らを守る盾になってくれる必要もある。

「ライナー達の心臓は渡してあげるべきだと思います」
「言っておくが渡す渡さないの選択肢はお前にねえぞ。あいつらの心臓はもう他の場所に移してある」
「えっ」
「当たり前だろう」

相変わらず視野の狭い女だとリヴァイはあきれる。どうしようかと悩みだす名前にリヴァイは甘いため息をついた。どうせエルヴィンの趣味で飼っているだけの人間だ。数人逃がしても困らないだろう。少し嫌みを言われる程度だ。

「お前が俺の言う事をきちんと聞けると約束するなら、あいつらの心臓を返してやる」
「本当?」
「エルヴィンの留守中は俺がこの城の城主だしな。そのくらいの融通はきかせられるが、俺もエルヴィンにちくちく言われるのは好まねえ」
「………はい」
「でっかい貸しだな、名前よ」

名前は口角をさげたが、ここで断るのもおかしな話だったので何度も頷いた。はじめにこの城に来た時から決めていたのだ。彼らを解放しようと。自分のなかに残る人間らしさなのだろうか。リヴァイと共に彼らの居館を訪れると二階奥の部屋にはアニがいた。

「ライナーとベルトルトは?」
「…あんた、あんな目にあったのによく平気な顔をして会えるね」
「まあ、たぶんこれが最後だと思いますよ」
「二人なら、二個となりの部屋だよ」
「ありがとう……アニ、アニもここから出たい?」
「別に」
「そっか」

名前はうれしそうに笑った。そしてリヴァイの手を引いて部屋を出て行く。リヴァイはアニを一瞥して出て行った。彼はもう寝る時間だろうに名前につきあわされているらしい。おつかれさまなことだと内心笑った。

「ライナー、ベルトルト。心臓を返してもらえますよ」

名前は部屋に入るなりそう宣言した。呆気にとられたのはライナーとベルトルトだ。寝起きという事も有り、上手に廻らない頭でも、名前が何を言っているのかはわかる。その言葉に信憑性を持たせるのが、名前の後ろに立つリヴァイだ。

「名前?なにを言っているんだ……?」
「あなた達の心臓を返してあげます。私は一緒に行けないから代わりに腕の立つハンターを紹介してあげます」
「なんのつもりだ……?!」

ライナーが疑いの目を向けた。あれほど認めないと言い張っていた名前がとたんに意見を翻したのだ。疑うのも無理は無かった。

「人として思うように生きて、死にたいっていう願いはかなえてあげたくなりました。私にはもうできないことですし」

名前はダンピールだ。半端者として生きていくしかないのだ。人間だと思い込んでいた身からしてみるとつらい。だから、ライナー達の意思を汲んだ。

「夢を見たんです。まだ私が幼かったころの夢で、今となっては笑っちゃうものですけれど。大きくなったら母と同じように衣を仕立てる仕事をして、結婚して、子供を産んで幸せに暮らせるんだって信じていました」
「……」
「あなた達の夢も、そうなんでしょう?」

ライナーは名前の前に膝をつき、そのまま頭を下げた。土下座だ。思いもしなかった行動に名前は目を丸くした。

「お前に酷いことをした。本当にすまない」
「私も思い込みで酷いことを言いました。ごめんなさい」

リヴァイからしたらなれ合いにしか見えないのだろう。不快そうに顔をしかめていた。リヴァイに頭を上げたライナーが問いかけた。

「リヴァイさん。本当に心臓を返してくれるのか」
「ああ。だが、心臓を取り戻したところでお前達の寿命はそう長くない」
「覚悟はしていますよ。少ない時間でも、自己満足で死ねたらいいんです」
「クリスタも巻き込むつもりか?」
「彼女の意思に任せます」

名前はリヴァイを見た。仕方ないとリヴァイは頷く。名前は紙をもらい、何かをしたため出した。ベルトルトがそれを覗き込む。中身はペトラ達への手紙だ。ライナー達が困った時に助けてくれるよう書かれたその手紙を名前はベルトルトに渡した。

「出立は明日の朝だ。日が昇りきる前に出て行け」

リヴァイの言葉に二人は頷いた。

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