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しきりに体温をチェックするハンジはとりあえず異常なし、とつぶやいた。発熱は認められない。思い出したかのようにリヴァイを見ると、救急箱から消毒液を出した彼は名前の指を消毒し、その指を咥えて止血をしていた。溢れ出る血をなめとる姿はまさに吸血鬼だ。リヴァイにも異常は見られない。

「大丈夫みたいだね」
「ああ。俺も異常はない」
「最初の難関は乗り越えたわけだ。アナフィラキシーショックが起きないとわかったら輸血をためらう必要はないもんね!これから毎日一定量の輸血をお互いにしてもらうよ。あとはエルヴィンの血液と比較して結果をみるだけだ」

ハンジはノートに勢い良くなにかを書き留める。リヴァイは名前の指から口を離した。もう一度消毒をして、ガーゼをあてて包帯を巻く。すやすやと寝息を立てる名前を一瞥した後、彼女を抱え上げた。

「どこにつれてくの?もう少し観察したいんだけど」
「こんな汚ねえ部屋に置いておけるか。名前を連れ込みたいなら清潔にしろ」

リヴァイは名前を塔に連れ帰った。背中に担いだ彼女から心臓の鼓動が聞こえる。ゆっくりだが、確実に聞こえる。部屋のベッドに名前を寝かせ、リヴァイは椅子に腰掛けた。そして目を閉じる。数時間後、名前が見たのは椅子で眠るリヴァイだった。明け方だというのに部屋の明かりは煌々とつけられている。リヴァイの気遣いだろうか。起き上がった名前は寝過ぎが原因で痛む頭を抑えた。

「…起きたか」
「あ、はい。ごめんなさい。なんか迷惑をかけたみたいで」
「そうだな。体に異常はないか?」
「特に…寝過ぎで体と頭が痛い程度です」
「そうか。まあ、飲め」

リヴァイはサイドテーブルの上の水差しからコップに水を移し、名前に渡した。ぬるい水が食道を落ちていく。盛大に息を吐き、名前はコップをテーブルに戻した。

「今日からハンジの実験につきあうぞ。毎日血液検査だ」
「そういえば、私まだ詳しくは知らないんだけど、ダンピールの寿命を延ばす事なんてできるんですか?」
「……吸血鬼には対病、対加齢の働きをする酵素がある。俺たちは吸血鬼からそれを差し引かれて生まれてきた。寿命というのも、人間の寿命にしても短い。それは、体内にある血液を酵素生成に使っているからだ」
「その酵素が生成できなくなって死ぬのか。ふーん。心臓を食べるってのはどういう理屈なんでしょうか」
「酵素は心臓で生成、貯蓄されると考えられている。相手が今まで貯めてきた酵素をそっくりそのまま自分に貯蓄できるんだろ」
「なんだか便利ですね。じゃあ、もう一つの方法は?精神論は信じませんよ」
「………お互いに血液を交換し合うんだ。吸血鬼の習性として弱った吸血鬼に自分の血液を与えるものがある。自分の血液を通して酵素を与えているらしい。他者の酵素はなかなかに消費されにくいらしくてな。俺とお前の血液を交換し合うことで人間の血が交換される事による酵素の生成活発化、血液を通して渡された酵素の貯蓄ができる」
「血液の相性悪かったらショック状態になって死ぬんじゃないですか?それ」
「愛があれば大丈夫だ」

名前は胡乱な目を向けた。理屈はわかった。わかったが、他人の血液を体に入れるのは怖い。
その心境を読み取ったリヴァイは、名前が寝ている間に実験は済んでいる事を告げた。彼女の目が見開かれる。安堵と少しの怒りが見えた。

「俺とお前はちゃんと愛し合っている証拠だ」
「はあ……」

名前の芳しくないリアクションにリヴァイは頬をつねり上げる。

「いたい」
「精々俺の機嫌を損ねないよう気をつけるんだな。力では俺のほうが圧倒的に上だ」
「リヴァイさんこそ寝込みを襲われて心臓食べられないよう気をつけた方がいいんじゃないですか」

買い言葉に売り言葉だった。名前はベッドから立ち上がる。ふらつきもしない。顔をぺちぺちとたたき自分に気合いを入れた名前の腕をリヴァイは掴んだ。

「どこに行く気だ?」
「ライナー達ともう一度話をしようと思って」
「何故だ」
「彼らが必要としている人物を紹介してあげようと思って……私も彼らの話を聞かなすぎました。なにも、いきなり喧嘩を吹っかけようとするわけじゃないでしょうに。外の世界に出たとして、外と彼らをちゃんと仲介してあげられる人が必要だとおもういます。でも、私はここから出る訳には行かないでしょう?」

リヴァイは口を閉じたままだ。名前がリヴァイの手を優しくほどく。大丈夫だと言うが全く信用できないリヴァイは彼女についていくことにした。きっと彼らはあの居館にいるだろう。他に行く場所はないのだから。

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