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リヴァイの問に返答を返したのはユミルだった。考えこむクリスタの縋るような目に負けたのだろう。仕方ないとばかりに口を開いた。

「この城にいる人間はエルヴィンさんの観察対象だ。人間という生物を理解するために飼い殺しているんだろ。ライナー達の企みがばれようが殺されはしないのはそういうことだろ」
「まあ、そうだな」

ユミルの言ったことは合っていた。人間という種族がどのような生体を持っていて、どのように行動するのかをエルヴィンは調べていた。そのちょうどいい観察対象として飼われていただけなのだ。屈辱にライナーの顔が歪み、拳に力がはいる。

「ならばもう十分じゃないのか。俺たちを解放してくれ」
「それは俺じゃなくてエルヴィンに頼むことだな。お前達と取引をしたのはエルヴィンだ」
「……」
「直接エルヴィンに交渉しないで名前を使うとは卑劣だな」

エルヴィンに言ったところで答えは見えているのだ。ライナーは再び拳を握った。自分から絶望を味わいにいくやつは少ないだろう。その気持ちを汲み取ったらしいリヴァイは少しだけ同情の眼差しを向けた。人間だな、と思う。

「それに、お前は名前を連れて行くつもりだろう。それは俺にとって重大な問題だ。あいつは返してもらう。何もあいつである必要はないんだろう。教皇の側に行ける人間なら外にごまんといる」
「俺たちが必要なのは名前だ。あいつは話せば分かってくれる」
「尋問者相手に心を開くと思っているのか?」

リヴァイはライナーを押しのけて階段を下りた。埃っぽい空気に顔をしかめる。ずいぶんと長い間使われていなかった地下牢は黴臭く、それがより一層リヴァイの機嫌を悪くした。思わず鼻と口に手を当てる。こんな衛生環境の悪い所に閉じ込められてかわいそうに。黴の匂いと血の匂いが濃くなった。

「オイ」

ベルトルトは立ち尽くしていた。地下から地上の声は小さくとも聞こえていたし、リヴァイがおりてくる事も覚悟していた。だが、実際彼が自分の前に立ったとき、どうすればいいのかわからなかったのだ。ベルトルトを押しやり、椅子に座りうなだれる名前の前に膝をついた。名前の目が億劫そうに開く。リヴァイの顔を見て、重力に負けるように閉じられた。彼女の体を見る限り、暴行を受けた形跡はない。出血点を探った彼は名前の指にできた深い裂傷に顔をしかめた。

「こいつは連れて帰るぞ」

名前を担ぎ、リヴァイは出て行った。彼の階段を登る音が聞こえる。ベルトルトは彼女の座っていた椅子をじっと見た。ライナーはダンピールだから分かってくれないと言っていたが、名前はついこの間まで自分を人間だとおもって生きてきたのだ。きっと、自分たちが間違っているのだろう。それでも、もう止められない。だが、自分たちの野望を叶えるためには名前が必要不可欠なのだろう。人間と吸血鬼のハーフである彼女。聞けば社会的にも有名人らしい。これを利用しない手はないとライナーは言っている。ベルトルト自身もそう思う。

「リヴァイさんは許さないだろうな」

地下牢に戻ってきたライナーはベルトルトの独り言に反応した。ライナーはベルトルトが撫でる椅子に腰を下ろした。下手をすれば、自分だけではなく、ベルトルトの心臓もつぶされるだろう。クリスタも危ない。

「エルヴィンさんの思惑ってなんなんだろうな」
「え?」
「名前をこの城に招いたのもエルヴィンさんらしい」

ベルトルトは、さあとしか答えられなかった。アルミンに聞けばわかるかもしれない。ひとまずここから出ようと言うとライナーは素直に立ち上がった。


■ ■ ■


リヴァイが名前を運び込んだのはハンジの部屋だった。ハンジはぐったりする名前を見て椅子を蹴倒しながらたちあがる。ソファーにあった書物を床に落とし、リヴァイは名前を寝かせた。

「ど、どしたの!?まさか……?!」
「違う。城の人間にやられた」

リヴァイの言葉にハンジは煮え切れない顔をした。名前が異形と分かった途端にこれだ。ハンジは名前の脈を測り、眉をしかめた。

「遅すぎるね」
「名前と最後に会ってから三日経っている」
「なにをされたか知らないけど、衰弱しているのは確かだね。さて、どうするリヴァイ?どうするって聞くまでもないか。そのためにここにつれてきたんだもんね。さあ、腕を出して。実験を始めようじゃないか」

リヴァイは黙って腕まくりをした。ハンジの目は爛爛と輝いている。給湯室でわかしていたお湯に注射器を入れ、殺菌する。リヴァイは名前の額をそっと撫でた。

「他人の血液をむやみにいれちゃいけないとかよく言うけど、まあこの場合はどうしようもないからね。君たちの血液の相性が悪かったら名前は死んじゃう可能性があるんだけど、どうしようもないからね」

興奮により震える手でハンジは注射器を手に取る。どうしようもないのだ。ここにダンピールは二人しかいないのだから。かつて、ハンジの実験でエルヴィンから血液をもらうことで寿命の増加をはかったが、どうやら相性が悪かったらしく、三日三晩高熱にうなされ、死にかけた。支配を受けようとした時もそうだ。リヴァイの心臓はエルヴィンにはとれなかった。

「じゃあ、いくよ」

ハンジが注射器を持つ腕をもう片方の腕で押さえながら針をリヴァイの腕に刺した。十五ミリリットルほど抜き、いったん抜く。それを今度は名前の腕に刺し、注入した。リヴァイは針の刺さった部分を指で圧迫し、止血しながら名前の様子を見る。赤黒い自分の血液が名前の体内に消えていくのを目を細めながら眺めた。

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