13

 
翌朝もアニによって起こされた名前はモブリットと名乗る人物に声をかけられてハンジの研究室に行くことになった。
モブリットに連れられて再び階段を下る。名前たちを出迎えたハンジは昨日と同じようにソファーに腰掛けるよう言った。

「やあ、名前。よく眠れたかい?」
「ええ。そうだ、昨日聞きそびれてしまったんだけど、貴方は何を調べているの?」
「ん?ああ、私が調べているのは吸血鬼の繁殖方法だよ。繁殖っていうと少し語弊があるけど……。吸血鬼に噛まれたものは吸血鬼になるとか、眷属になるとか、諸説あるだろう?」
「吸血鬼に支配される人間がいるって聞いたことがあります」
「なら話が早い。結果から話すと、吸血鬼同士で生殖行為を行った場合は純血と呼ばれる吸血鬼が生まれるんだ。これは当たり前のことだね。吸血鬼が人間を吸血鬼化させるっていう伝説についても調べているよ。あともう一つ、構造的に近い吸血鬼と人類の間に雑種が生まれる可能性はあるのか、これが今の私の研究テーマだ。名前はハンターとしていろんな吸血鬼に会っているだろう?彼らの話を是非聞きたいんだ」

ハンジが勢い良くまくし立てる。紅茶を運んできたモブリットが、ハンジのつばが入らぬようにとマグカップの上に布をかけた。よく気がつく人だ。

「吸血鬼に会ったといっても会話なんてほとんどしませんでしたよ。殺すか殺されるかだったし。それに私の狩り方って吸血鬼がまだ寝ている夕方に奇襲かける戦法でしたし」
「へぇ。どうやって殺していたんだい?」
「寝ている吸血鬼の心臓をひと突き、かな。首を飛ばしたこともあったかもしれません。心臓を突くか首を飛ばせばどんな生物も息絶えるから」
「私が外にいたころは銀の銃弾で殺すとか十字架で殴るとかで殺そうとしていたハンターが多かったんだけど、時代は変化したんだね」
「吸血鬼が十字架とかにんにくで怯むなんてまっさらな嘘って分かりましたから。銀の銃弾も別に、銀だからってわけじゃないみたいだし……」
「他には?」
「あ、あと太陽に当たると灰になるのも嘘みたいです。彼らはただ単に夜行性で、だから日中は動きづらいてだけ」
「研究は進んでいるね」
「異形の研究をしている人はめったにいないけれど。ハンター同士で情報交換しているものが知識になっていきます」

ハンジは砂糖を淹れた紅茶をぐるぐると掻き混ぜた。今度はハンジの話が聞きたいと言う名前に目をかがやかせる。話す体勢に入ったハンジにモブリットはそっと席を立った。今のうちに軽く部屋の掃除をしてしまおう。お構いなく、と名前に断ってモブリットは箒をとりにいった。

「んっと何から話そうかな。じゃあ、さっき名前が言っていた支配について話してみようかな。吸血鬼に支配される人間がいるか、と問われれば肯定するよ。この城の人間達は私も含め、ある意味支配されているよ」
「あなたも含め?」
「そう。吸血鬼によって支配されるってことは、心臓を捕われるってことと同じなんだ。生殺与奪権を握られることによる服従さ」
「…なんてことを」
「おや、怒るのは少し違うかもね。私は自らすすんで彼らに心臓を預けたんだ。なぜだと思う?」

名前はエレンから聞いた話しを思い出した。

「心臓を預けると身体の成長が止まるから?」
「そうそう。そうなんだけど、人間の心臓を持った吸血鬼はその人間の感情を読み取ることができるんだ。だから、私がこの城を燃やそうとか考えたら、実行に移す前に私の心臓は握りつぶされてしまうだろうね。つまり何が言いたいかっていうと、私は心臓を渡すことで信頼を示したんだよ」
「……でもそれって、人間が一方的に不利じゃないですか?」
「リスクは大きいね。ああ、そうだ。訂正するのを忘れていたけど、不老不死になれるわけじゃないんだ。私はエルヴィンの命を削ってこの時間を保っているから、彼らにもリスクはあるね」

ハンジは手元の砂時計をひっくり返してみせた。身体の成長を止めるにはどうすればいいか。手っ取り早く、仮死状態にしてしまえばいい。止まった時間を動かすのに使われるのが、吸血鬼から与えられる時間だと言う。にわかには信じられない話だった。

「じゃあ、その心臓を預かった吸血鬼が死んだらどうなるんですか?」
「身体は仮死状態だから、心臓持って行かれたまま死なれたら徐々に人間の肉体も死んでいくんじゃない?君が狩った吸血鬼には眷属はいなかったのかい?」
「…眷属かどうかわからないですけど、吸血鬼のために私達を騙そうとした人間はいました。でも大抵裏切り者として殺されてしまったので」
「それはまた、えぐいことをするんだね。自分の意思とは関係なく操られているとは考えなかったのかい?」
「考えませんでした」

ハンジは嘆息した。名前も好きで殺したわけではない。共にいたハンターが吸血鬼の盾になった女ごと撃ったのだ。彼女は自分を人間だと語った。事実、彼女の死体は人間の姿のままだった。それを見て人を殺めてしまったと蒼白になる名前に、彼女を撃ち殺した男は魔女だと言ったのだ。

「魔女ねえ」
「人間が無理に操られることはあるんでしょうか?」
「できるって言っていたよ。私はやられたことがないから知らないけど……今度お願いしてみようかな」
「知りたいなら試せばいいですもんね。心臓を取り戻したら、どうなるの?」
「止まった時が動き出すだけさ。ただ、肉体はその分疲労しているはずだからもとの寿命よりかは短くなるだろうね」

ライナー達はこのことを知っているのだろうか。捧げたのだろうが取られたのだろうが知らないが、彼らが望むなら協力しよう。どのみち忌々しいと名前は唇を噛んだ。

prev next
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -