12

 
食事を終えた名前は中庭を散策していた。食器を返すついでに食堂で働く人間達に会いたいとおもったのだが、タイミングが悪かったのか誰もいなかった。
思えば、名前はアニやライナーがどこで寝泊まりしているのかもしらない。中庭のベンチに腰掛けて月を仰いだ。昨夜から少し太った月が綺麗だ。クロルバへ行くよう指示された手紙を受け取ってから夢見心地の日々が続いている。
ため息を吐いた名前は月の隣に並ぶ塔をじっと見た。彼はまだそこにいるのだろうか。もう一度あってみたいとおもった。そしてその願いはあっけなく叶えられることとなった。

「不自由はないか」
「……ちょうどあなたに会いたいと思っていました、リヴァイさん」

忽然と現れたリヴァイは名前が座るベンチの後ろに立った。名前は首を仰け反らせるようにしてリヴァイを見る。逆さに写る彼の顔色は相変わらず不健康だった。隈も酷い。絵に描いたような吸血鬼に見える。

「あなた、吸血鬼っぽいですね」
「半分ハズレだ」
「……どうぞ?座る?」
「いや、遠慮しておく」

名前はベンチの半分を開けるように端によったが、リヴァイは座ることを拒否した。
外に放置されている椅子なんかに座れるか、というのがリヴァイの心境だ。彼に潔癖の気があるとしらない名前は興味なさげにそう、とだけ返事をした。

「ああ、そうだ。こないだ聞きそびれていたことなんですけれども、城にいる人間たちの心臓って貴方が持っているんですか?」
「いや?あいつらのは持っていない。エルヴィンが持っているはずだ。食ってなければな」

エルヴィンという名前に反応する前に喰うという単語に反応した名前は顔を歪めた。それを見たリヴァイは冗談だ、という。とても冗談には聞こえない。嫌な奴だと名前はリヴァイを睨んだ。

「エルヴィンって名前、ハンジさんからも聞きました」
「……ハンジに会ったのか」
「ええ。今日の昼過ぎに」
「有益な情報は聞けたか?」
「あんまり。ハンジさんのペースにながされたみたい」
「まあ、だろうな」
「ハンジが、私が来ることをエルヴィンから聞いたって言っていました。エルヴィンって誰ですか?もしかして教会関係者ですか?」

名前がクロルバに来ることになった原因は教会からの手紙だ。エルヴィンという人物が関わっているのかと名前はリヴァイに尋ねる。
だが、エルヴィンは聞くところによると異形らしい。異端をなにより嫌う教会がそんなものと関わりを持つのだろうか。
リヴァイは自身の顎を撫でるように思案した。教えようか迷っているように見える姿に名前は期待の目を向ける。

「教会の傘下にいるやつじゃない」
「そう。良かった。人間の心臓をとって喰うような人が教会の傘下にいたって聞いたらきっと私の心臓も止まっていたと思います」
「あいつは純血の吸血鬼だ。お前らハンターのせいで絶滅の危機にいる純血の生き残りだ」

リヴァイの言葉には刺が含まれている。だが名前は悪びれることはなかった。

「最初に戦いを吹っかけてきたのは吸血鬼からですよ。今まで危うい均衡を保っていた人類と吸血鬼の勢力バランスはあの事件で完全に崩壊しました。」
「人類を襲っていたのは一部の吸血鬼という見方もできるが、お前らは無差別に狩っていった」
「狩られる前に狩るっていうのがあの時の時勢だったから仕方無いんじゃないと思いますけれど。それに、連帯責任です」

理不尽とも思える名前の言葉だが、これこそが人類の思想だ。リヴァイは諦めとも取れるため息をついた。そして哀れみの目で名前を見る。どうして自分がそんな目で見られているのかと名前はリヴァイを睨んだ。ダークグレーの瞳が印象的な彼の三白眼は、睨まれても尚、哀愁を浮かべ続けた。

「名前。この町では人間社会の常識は通じない。既存の概念ではなく、自分の目でしっかり見ろ」
「……あなたには違う世界が見えているんでしょうね」
「ああ。今のお前には見えないものが見えている」

リヴァイはジャケットの裏ポケットから鍵を取り出した。それを名前に渡す。磨き上げられた銅の鍵を手にした名前は首を傾げた。どこの鍵だろうか。

「ハンジのいる西の居館の奥に書物室がある。これはそこの鍵だ。好きに使え」
「書物?」
「暇潰しにはちょうどいいだろう」

名前はありがたく受け取った。だが引っかかることがある。何が引っかかているのか自分でも分からないが、胸の奥に灰がかった靄が浮かんでいるのだ。

「…どうして私に親切にしてくれんですか?私はハンターですよ?」
「ああ。お前はこの町に逃げ込んできた哀れな奴らの同胞を狩ってきた女だ。だが、エルヴィンはお前がこの町に住むことを許可した。長い付き合いになるんだ。親切にして損はないだろう」
「……長居するつもりはないのですけどね」

名前の言葉にリヴァイは驚いたように目を開き、そして自分のなかで勝手に納得して目を伏せた。感情の読み取りづらい男であると名前は思う。胸元のアスコットタイを弄るリヴァイは口を開くことはしなかった。

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