11

 
ハンジの部屋を出た後、名前の部屋にきたエレンは遠慮なくベッドに腰掛ける。アニが持ってきたクッキーの缶を目ざとく見つけたエレンは食べていいかと尋ね、名前はそれを了承した。

「ねえ、エレン。ハンジの話どう思いましたか?」
「何がだ?普通の質問だったじゃないか」
「普通の質問だからです。私は今まで何回もあの話をしました。研究者だったハンジなら知っていて当たり前のことばかりのはず」
「最初だから確認しておきたかったんじゃないか?」
「なんか腑に落ちない。結局、吸血鬼の何を研究しているか教えてくれなかったですし」
「勘ぐりすぎだな」

エレンはパタパタと尻尾を動かす。名前はそんなエレンの様子に何か隠されていると確信した。ハンジもエレンも何かを隠している。あの時の話でハンジが食いついてきたのは、襲ってきた吸血鬼というよりも、街自体にあるようだった。ハンジは街の何に疑問を抱いたのだろう。名前は考え込んだ。

「なあ」
「うん?」
「お前がハンターをやっている理由って、両親の仇討ちか?」
「まあそうですね。最初は教会に引き取られて普通に育っていたんですけれど、私のいた教会に住み着いていたハンターが私を引き取りたいって言い出して。彼に連れられて一緒に働いているうちにハンターになっていたって感じですね」
「なんだ。成り行きかよ」
「はい。最初は吸血鬼に対する恐怖で近寄りたくもなかったですから。一生内地で神に仕えて暮らすつもりでした。けどその男がわがままで半ば誘拐だったんじゃないですか?久しぶりに帰ったら大騒ぎだったので」
「人騒がせなやつだったんだな」
「本当に。人の人生をなんだと思っているんだか」

ふらりと姿を消した男のことを思い出した名前は少し笑った。同時に自分の任務も思い出して緩んだ顔を引き締めた。
ワーウルフと仲良く談笑している場合ではないのだ。教会の読み通りこの街には異形が住み着いている。それに加えて人間が奴隷のように働かされている。見過ごすわけには行かない。まずはライナーたちを開放することを優先しよう。

「ねえエレン、城の人間達は心臓を取られたって言っていたけれど、どうしたら取り戻せるとおもいますか?」
「取られた?捧げたじゃなくてか?」
「ええ」

エレンは首を傾げた。それを見て名前は不穏な気分になる。このエレンの反応が演技だとは思えない。ならば、ライナーやアニが嘘をついているのだろうか。同じ人間ですら嘘をつくのかと名前は首を傾げた。

「心臓を捧げる、ってどういうことですか?」
「ん?ああ、ハンジさんから聞いたんだけど、心臓を預けると身体の成長が止まるらしい。だからほら、お伽話に出てくる吸血鬼にさらわれる女は若くて綺麗な女ばかりだろう?あれは、吸血鬼がさらったって言うよりもその女達が衰えぬ若さと美貌を求めてついて行ったんじゃないか、って聞いた」
「へえ。初耳です、それ。おもしろい説ですね。でも結局食べられちゃったんでしょう?」
「誤解してそうだから言うけど、吸血鬼が吸血しすぎたせいで人を殺すことはめったにないぞ。吸血鬼特有の酵素?よくわかんねーけど、とにかく吸血鬼の体内のなにかが吸血の際に人間に入り込んで、そのせいで死ぬんじゃないかって言っていた。直接牙を立てれば死ぬけど、ナイフとかで傷つけてそこを吸うならば死なない。だから吸血鬼に襲われてもみんな死ぬわけじゃないってさ。ハンジさんの研究の受け売りだけど」
「……私の知識の浅さに絶望しました。ハンジさんってすごいんですね」
「あの人は天才だ。本当にすごい人なんだ」

エレンがしきりに繰り返す。エレンの目がきらきらと輝いているのをみて名前は少し引いた。先ほどは勢いに押されて聞きそびれてしまったが、次にあった時には聞こう、あの町を襲った奴らについて何かしらないか、と。ハンジなら何か知っているはずだ。

「……エレン」

ドアの向こう側からエレンを呼ぶ声がした。エレンは名前の許可を取ること無く扉を開ける。そこに立っていたのはミカサだった。ミカサは名前を厳しい目で見る。またエレンに危害を加えているのではないかと警戒されたようだ。

「エレン、ご飯ができたみたい。そろそろ食べに行こう」
「ああ、名前さんも一緒に行こう」

名前の言葉に反抗すると思ったが、ミカサは素直に頷いた。
エレンは名前の腕を掴んで部屋をでる。蓋を閉めたクッキーの缶はベッドの上に置き去りだ。アニと今朝食器を返したところにいくのかと思ったが、彼らはそこをスルーした。居館の奥へと進み、ミカサは廊下の中ほどにある部屋をノックした。

「アルミン。エレンと……あの女も連れてきた」

かちゃりと小さな音を立てて開いた扉からは金髪の華奢な青年が出てきた。名前は彼に向かって頭を下げる。ポロシャツにジーンズというラフな格好をしたアルミンは突然の来訪者に目を瞬かせたが、すぐに笑顔を向けた。

「どうぞ。さっきアニが四人分運んで消えたからびっくりしたんだ。あなたの分だったんですね」
「急におじゃましてごめんなさい。私、名前です。しばらくこの城でお世話になる予定です。よろしく」
「僕はアルミン。エレン達の幼なじみなんだ。よろしく」

名前の差し出した手をアルミンは握った。名前は彼の手の感触を確かめる。目立った蛸はない。そっとを手を離したアルミンは席に案内する。丸いテーブルの上にはパンとサラダとミネストローネがあった。名前の腹が匂いにつられてきゅるるると鳴る。それを聞いてエレンが馬鹿にしたような笑みを浮かべた。四人揃って手を合わせて頂きます、という。

「好き嫌いせずに食えよな」
「勿論です……この御飯って誰が作っているんですか?」
「城にいる人間逹が作ってくれているんだよ。彼らは城からあまり出ようとしないから、僕らが食料を取ってくるんだ。その代わりに調理は彼らがしてくれる」
「ってことはアルミンも人間ではないんですね」
「うん。まあ、そのうちわかるよ」

アルミンは教える気はないようだった。名前も無理に聞こうとは思わなかった。
どうやらこの城の住民達は本当に人間と共存しているようだったから。それに知能があるものが集っているようだ。
今まで名前が対峙していたものの多くは知性がなかった。獣のように分別なく人間を襲うものばかりだった。パンを行儀よく食べるワーウルフを見て、名前は疑問に胸をふくらませた。

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