09

 
森を探検し、満足して城に戻った名前が目を覚ましたのは日も傾く頃だった。リヴァイは名前が自由に調べることを許可した。ライナーとアニとの約束を果たす傍ら、この土地を調べつくそうと彼女はこの城に留まることにした。
離れた街で野宿をするよりずっといい。リヴァイに名前の世話をするよう言われたアニは彼女を起こしながらため息を吐いた。

「名前、あんたいつもこんな不規則な生活しているの?」
「え、はい。夜行性の生物を狩るときは昼前に起きて昼過ぎに行くのが普通でしたから」
「……さっさと食べな。あんたを探している奴がいる」

アニは名前の口に白パンを突っ込んだ。寝起きで乾いた口内を白パンが荒らしていく。水を求めた名前にアニは炭酸水を差し出した。喉をぴりぴりと刺激する炭酸水の感覚を楽しみながら彼女は勢い良くグラスのなかの炭酸水を飲み干した。
いちごのジャムと白パンをすぐに食べ終えた名前は手を拭きながらアニに尋ねた。

「私を探しているって誰が?」
「エレン」
「ああ、あのワーウルフか。顔洗ってから行くからちょっと待っていてください」
「着替えおいとくよ」
「ありがとう」

冷水で顔を洗い、髪の毛を一つに束ねた。ポニーテールが揺れる。アニが用意していた着替えは古風なドレスだった。名前は顔をしかめる。動きづらいと苦言を呈する名前にアニは何も言わない。無視だった。それでも駄々をこねる名前にアニは嫌な顔をした。

「不服なら自分で探すなり作るなりしな」

仕方なく名前はアニの後に続いて部屋をでた。居館の一階には大きな食堂のようなものがある。アニはその奥に名前の食器を置いた。中で働いているものがいるらしい。あんたが起きてこないせいで仕事が増えたというアニに申し訳ないと謝った。ホールをでたアニは中庭を指さす。木に凭れ掛かるように座っていたのはエレンだった。エレンは立ち上がり名前の方へ歩いてくる。アニがそっとその場を去った。

「あんたもここに住むことになったんだってな」
「いろいろありまして。今日はあの女の子と一緒じゃないんですね」
「ミカサか?ああ、別にいつも一緒ってわけじゃねーよ」

エレンは人懐っこい。名前と初めて会った時には隠れていた尻尾と獣耳が彼の感情をわかりやすく示していた。ぱたぱたと揺れる尻尾を尻目に名前はベンチに腰掛けた。エレンもその隣に座る。外から来た人間が珍しいのだろう。

「この城はもう探検したか?」
「東の居館と塔は歩きました。西の方にはまだ入っていませんよ」
「塔に登ったのか!?」
「リヴァイって人に会いに。殆ど話せなかったけど……」
「東棟はリヴァイさんのテリトリーだから、あんま近寄らないほうがいいぞ」
「エレンもあの人になにかされたんですか?」

刺のある名前の言い方にエレンは首を傾げた。

「別になにかされたわけじゃないぞ。東棟はリヴァイさんのお気に入りだから汚すと怒られるから注意しただけだ」
「ここにいる人たちは奴隷のように働かされて、此処に閉じ込められているって聞いたんですけれど、エレンは違うんですか?」
「ああ。俺もミカサもアルミンも別になにもされてねぇよ。むしろ気ままに生きてるな。前にも言った気がするけど、俺達にとって人間が近寄らないこの街は居心地がいいんだ」
「……そう。エレンはここから出たいとは思わないんですね」
「いや?俺はいつか人間を駆逐してここから出る」
「…………」
「リヴァイさんの恩に報いるため、まだおとなしくしているだけだ」

エレンの目が金色に輝いた。駆逐の響きに名前の目も細まった。エレンたちにとって名前達人間は害なのだ。それは名前たちにとっても同じである。
増えた人間が生活圏を得るためには先住人であるエレンたちを追い出すしか無い。土地を取られた彼らが人間に立ち向かうのも自然の摂理だ。正当な理由があったとしても襲われた人間は対抗策を練る。それが名前達、ハンターだ。

「アルミンもミカサも俺も、五年前に住処を追われたんだ。ここにいる奴らはみんな人間に何かを奪われた奴らだ。あんたも精々気をつけるんだな」
「ええ、そうしますとも」

名前が皮肉っぽく口角を上げた。椅子に打ち付けた首が鈍く痛んだ気がする。首を抑えた名前にエレンはあ、と声を漏らした。

「そうだ忘れていた。あんたに会わせたい人がいるんだ」
「えっ誰?」
「あんたと同じ人間だよ。まあ、なんというか普通の人間とは違うんだけど。変わった人だけどいい人なのは間違いない……かな、」

エレンが歯切れ悪く言った。名前はエレンが見る西の居館を眺めた。エレンは太陽の位置を見て、名前を見る。名前の顔をじっとみつめるエレンに彼女は眉を寄せた。

「今から会いに行っても大丈夫か」
「私は大丈夫ですけれど。あなた行きたくなさそうですね」

名前の言葉にエレンは耳を下げた。今朝方、ハンジに遭遇したエレンは名前のことを根掘り葉掘り聞かれた後、研究室に連れてくるよう約束させられたのだ。ハンジの研究室は西の居館の地下にある。仕方ないと腰を上げたエレンは訝しげな顔をする名前と連れて居館に向かった。

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