07

 
この城は大きく分けて六つに分けられるらしい。森から城に入るところに城門があり、城門から階段をしばらく上がると城壁塔が現れる。門塔を抜けると一つ目の小さな居館がある。この居館の中を進むと大きな中庭が広がり、その中庭を挟むようにコの字型と逆コの字の大きな二つの居館があった。そして居館の横には塔があり、この敷地のはずれには礼拝堂があると言う。名前が現在いるのは東の居館らしい。

「地図が欲しいですね」
「この城のどこかにはあるだろうけど、俺達が手に入れることは無理だな。ここは使っていないとはいえ城だ。城は要塞だ。そう簡単に地図なんか手にはいらないだろう」
「抜け道とか隠し部屋って無いんですか?」
「あるぞ。あるが、今俺がそれをあんたに説明してもよくわからないだろうな」
「まあ案内人がいるからいいか」
「おう、任せとけ」

ライナーはニカッと笑った。その時、名前達がいる部屋の扉が開いた。ライナーが慌てて立ち上がる。部屋に入ってきたのは小柄な金髪の女性のようだ。
その姿を見てライナーは力を抜いたが名前は警戒した。女の子といえども油断してはまたやられる。名前の様子を察したライナーが声をかけた。

「アニ、どうしたんだ?」
「……そいつが起きたみたいだからなんか持っていけって」

アニが手に持っていたのはミルク粥だった。牛乳とコンソメのスープの中に玉ねぎや人参、ベーコンまで入っている粥に名前は食欲をそそられた。スプーンをアニから渡されたものの、名前は手をつけようとしない。注意深くライナーとアニを見比べた。

「魔術がかかってないとは言い切れないけど毒は入ってないよ」

アニは肩をすくめた。そして名前の手からスプーンを取り、一口食べる。アニの喉がしっかり嚥下したことを確認してから名前は再びスプーンを受け取った。一口食べると腹の底からあたたまるようだった。思い返せば昼から何も食べていない。数分でペロリと粥を平らげてしまった。

「すごい勢いで食べていたけど、足りた?」
「あ、はい。ありがとうございます」
「そう。で、ライナー。あんたはここで何してんの?」

アニから冷たい目で見られたライナーは慌てた。深夜淑女の寝室にいたのは事実だが、アニが疑っているようなことは一切ない。あたふたと弁解するライナーに名前は尋ねた。

「あの、二十三年前に、一つの町が吸血鬼によって滅ぼされたんですけれど、その話について何か知っていますか?」
「いや?俺は五十年近くここにいたから外の情報は全く入ってこないな。アニも同じだ」

アニも頷いて見せた。名前はそう、とだけ返事をする。そう簡単に辿り着くわけがないとわかっていたが、思った以上に前途多難なようだ。考えこむ名前を見ながらライナーはアニに目を向けた。

「この人のことはリヴァイさんから聞いたのか?」
「特には聞いてないけど」
「俺もよく知らないんだが、ミカサに伸されて気がついたらここにいたらしい。その、ハンターらしくてな。クリス……俺達が逃げるのに協力してもらおうと思って話していたんだ」
「ハンターだったんだ。でもミカサにやられたんでしょ。無理だとおもうけど」

アニはちらりと名前を見る。自尊心を傷つけられた名前もアニを見返した。かけてみる価値はあるというライナーにアニは渋々といったように頷いた。だが、表立って協力はしたくないらしい。

「異形狩りはあんたの本分だろ。あんたが上手くあいつらを駆逐できたら私はそれに乗じてここをでさせてもらうよ。私はあんたに一方的にお願いするだけってことにして欲しい」
「それで構いませんよ」

渋るアニの背中をライナーが軽く叩いた。チャンスなのは間違いないのだ。名前が強いことはライナーも分かっている。アニの用心深さは彼女の長所でもある。粥と共に運ばれてきた水をのみほした名前は肩を回した。どうやらアニは報復を恐れているようだ。

「あなたにお粥を持ってくるように言った人は今どこにいるんですか?」
「東塔だと思うけど」
「会いに行っても平気でしょうか」
「……まあ、地下牢にぶち込まれてないところをみると平気なんじゃない?」

アニは無表情にそう言ったが、ライナーは少し不安そうだった。

「こんな真夜中に会いに行くのか?何しに行くんだ?」
「ここまで運んできてくれたお礼とご飯のお礼に、あと聞きたいこともありますし」
「……気をつけろよ」
「心配ありがとうございます。ところで、私の荷物は知りませんか?」
「知らないな。アニ?お前は知ってるか?」
「知らない」

見知らぬ人物に会いに行くのに丸腰では心細い。名前はまだライナーもアニも信頼しているわけではないのだ。名前はなにか武器になるものがないかと部屋を見渡した。ライナーに護身の武器が欲しいというと彼は自分のポケットから小さなナイフを取り出した。

「厨房に行けばもっとまともな刃物はあるぞ」
「これでいいです」
「言っておくけど、あの人はミカサより強い。無意味な争いは止めた方がいい」
「挨拶にいくだけですから。なんならどっちかついて来ますか?」

名前は問いかけたが二人共首を横に振った。仕方ない。一人で行くか。東塔にいるという人物は名前を部屋まで運んでアニに接待させている。なにか思惑があるはずだ。ライナーに案内され、名前は東塔に入った。

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