06

 
本を読んでいたリヴァイは顔を上げ、埃にまみれたエレンと殺気立つミカサ、そしてミカサが肩に担いでいる女を順番に見て、「コレは一体どういう状況だ」と尋ねた。
鋭い目で射抜かれたエレンは冷や汗をかきながら状況を説明する。教会に人間がいたからちょっかいを出したとエレンがいうとリヴァイの目は一層鋭い光を放った。あれほど人間には関わるなと言い聞かせていたのに。

「私はこいつを捨てるつもりだったんですけど、エレンがどうしても持って帰るって聞かなくて」
「……こいつの首にこれがかかってて」

エレンは名前の胸元をあさり、ペンダントを取り出した。目の前に差し出されたペンダントをリヴァイはじっと見つめる。余計なことをしただろうかとエレンは上目遣いでリヴァイの様子を伺った。リヴァイは小さくため息をついた。

「この女は俺が預かる。お前らはもう寝ろ」
「どうするんですか?」
「お前は気にするな。殺しはしない」

ミカサが肩から名前を下ろし、リヴァイが抱き上げる。時刻は夜も更ける頃。旅の疲れもあるのか一向に目を覚まさない名前を呆れたようにリヴァイは見た。
城の一室のベッドの上に彼女を寝かせ、少し逡巡した後、リヴァイの手は名前の左胸に伸びた。エレンが胸元を弄ったさいに肌蹴たシャツをそのままに、彼の手は名前の柔肌に沈んだ。手首まで埋め込んだリヴァイが何かを握り、ゆっくり取り出す。リヴァイが握っていたのは名前の心臓だった。青白い顔で眠る名前を一瞥した後、リヴァイはむき出しの心臓を大きめの瓶のなかに仕舞った。


■ ■ ■


目覚めた名前は暗闇に面食らった。女に体当たりを食らったことは覚えている。どうやら気絶していたらしい。首の鈍い痛みに顔をしかめながら名前は身体を起こした。ここはどこだ。窓を見つけ、此処はどこかの一室であると判断した。足音を忍ばせて窓の外を覗く。目下には豊かな森、森の周りは暗くて何も見えない。錆びた窓を開けた名前は上半身を大きく乗り出し自分が今いる建物をよく見た。

「………城?」

身体を引っ込めた名前は暗闇に慣れてきた目で部屋をよく見る。一世紀近く人間の手が入っているにしないにしては綺麗すぎる。きっとここを根城にしているものがいるのだろう。名前の服装はエレンと争った時と変わらない。ただ、持ち物は全てなくなっていた。部屋の扉に耳を当てる。音はしない。ドアノブを回すとあっけなく開いた。

「(捕らわれているわけじゃなさそうだけれど)」

名前は足音を忍ばせながら廊下を渡る。廊下の角で様子を伺う名前の目に人影が目に入った。屈強な体躯を持った男だが、名前は勝てると確信した。
彼が廊下を曲がろうとした時、名前は少し右に上体を傾け、左拳で男の右腕を跳ね上げた。相手が不意を付かれて呆然としているなか、右足を踏ん張り、腰をねじって右拳を男の腹部に突き上げる。綺麗にボディブローが決まった。倒れる男の襟首を持って先ほどの部屋の中まで引きずる。

「お前!なんなんだ……」
「静かに。質問に答えて。ここはどこ。どうして私はここにいるの」

名前は男の指に自分の足を乗せた。いつでもへし折れると示唆しているのだ。ぎょっと目を剥いた男はつばを散らしながら、それでも小声で名前の質問に答えた。

「ここはクロルバの古城だ。どうしてあんたがここにいるのかは知らない。誰だよあんた」
「私は名前。人間です」
「人間か!!!」
「ええ。あなたは何?」
「俺も人間だ!!!あんた本当に人間か!!!」

男が興奮したように暴れるので名前も指を踏む足に力を入れた。痛みで呻く男が静かになる。本当にこの人は人間なんだろうか。名前は疑心暗鬼だ。その疑問を汲み取るように男は身の上を語りだした。

「俺は殺人を犯しちまったんだ。相手は俺たちの街を治めていた領主で、もちろん領主殺しは大罪だ。それで追われる身になって仕方なく人が寄り付かないこの街に身を潜めていたんだ……」
「続けてください」
「森に食料はあるし意外と快適だったよ。だがすぐにあいつらに捕まったんだ」
「あいつらって?」
「吸血鬼やら狼男やら、果てには魔女やらブラックドッグやら!この城は、街は化け物の巣窟だったんだ。俺は逃げたよ。けど追いつかれて捕まってこうやって奴隷みたいに働かされているんだ。あんたハンターだろ?助けてくれよ!俺みたいな人間が十人以上此処にいるんだ」

名前はひとまず男の話を信じることにした。男から離れた名前はふむ、と腕を組む。解放された男は名前の前に立って頭を下げた。名前の手を握る。

「どうして逃げないんですか?」
「俺達の心臓を抜きやがったんだ、あの悪魔は。心臓を握られている以上逃げられない。辛くて死のうとしても死ねない。信じられるか?俺は五十年以上ここにいるんだ」
「五十年……悪魔って?」

目の前の男はどう見ても三十に達していなかった。十代後半か二十代前半だろう。心臓を抜き取られたことで身体の老いが無くなったのか、遅くなったのか。にわかに信じられないことに名前は顔をしかめた。

「あいつの正体は不明だ。あんたならわかるんじゃないか?」
「……分かりました。あなたが解放されるように手を尽くしましょう。でも、あなたにも協力してもらいます。後でゆっくり聞きたいことがありますし」
「ああ。俺はライナーだ」

名前の言葉にライナーは頷いた。名前も頷く。まずは敵の正体を知る必要がある。この城の情報をライナーから聞き出すことにした。

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