05

 
異形に背後を取られたと思った名前は引いていた左足を軸に反転し、青年と距離を取った。それを見た青年は大きな目をさらに大きく開いた。椅子を目の前に引き摺りだして彼との間にさらに距離をとった名前が腰から短剣を抜いた。

「いきなり話しかけたのは悪かったけどそんな物騒なもん向けるなって」
「あなたは何?」
「何って、俺はエレンだ。たまたま城からあんたを見つけたから様子を見に来たのにこの待遇はひどくねェか?俺、何もしてないよ」
「……私、観光客じゃなくてハンターなんですけれど、わかっていますか?」

狩人の言葉にエレンが顔をしかめた。頬をぽりぽりと掻く仕草をした。眉を下げて困り顔をするエレンに名前の気も抜けた。距離は保ったまま短剣は鞘に収める。それを見たエレンはほっと息をついた。

「聞きたいんですけれど、この街の住人はどこにいるんですか?」
「住人?生身の人間なんていないぞ。あ、いや、いるにはいるな」
「どこに?」
「城だ。そこに何人かいたはずだ。まあ、普通の人間ではないことは確かだ」

エレンの言葉に引っかかりを覚えたが、名前はこの土地に来るような変わった人間は確かに普通では無いなと解釈した。

「嫌な町ですね、ここ」
「人間にとってはな。だが俺達にとっては住みやすい街だ。悪い噂のせいで人は近づかない。他の街から居場所を奪われた奴らはここに安息を求めている。だから、ハンターのあんたに頼むのはお門違いだと思うけど、そっとしておいて欲しいんだ」
「……」
「俺達は人間を襲っているわけじゃないだろう?」
「今は襲ってこなくても、将来、人類の脅威にならないとは限らないじゃないですか」

名前の言葉を聞いてエレンの眉があがった。なんと一方的な言い草だろう。エレンの警戒を感じて名前も背を伸ばした。辺り一帯の異形を狩り尽くす掃除屋としての名前は異形間でも知られているのだろうか。

「……」
「まあ、あんたの言うこともわかる。脅威の芽は刈っておくべきなんだろうな」
「どうしますか?」

エレンが握りこぶしを胸の前に作った。名前にはエレンの正体はわからない。真っ昼間から現れていることを考えると吸血鬼ではなさそうだ。タッツェルブルムかブラックドックかモズマかワーウルフか。名前は短剣を再び抜いた。余分な荷物を床に落とす。

「あまり派手にはやりたくないんだよな」

エレンがつぶやいた瞬間、名前は前に飛び出しながら短剣を振った。
エレンは咄嗟に拳を突き出して名前の肩を狙う。腕が交差した時名前は右足で地面を蹴り、左膝でエレンのみぞおちに一撃を食らわせようとした。エレンは左手でそれを受け止める。そのまま力を込めて膝を砕こうとするエレンの顔を狙って名前が短剣を振った。思わず仰け反ったエレンは左手の力を緩める。地面に着いた名前にバランスを取り直したエレンが前蹴りを放つ。エレンの足裏が確かに名前の胸元を捉えた。名前は体をひねったが避けきれず、身体をくの字にしながら背中を打った。分厚い防具越しにしては随分な衝撃だった。エレンの目が黄金に輝く。その頭を見た名前が口角を釣り上げた。

「ワーウルフ!」
「正解!」

名前の短剣が掠めたのか、眉上から出血しているエレンは右目をしきりに拭っていた。筋層の境目にナイフが入ったのか出血量が多かった。指を曲げて襲いかかってくるエレンに名前はカウンターを仕掛けるように左裏拳を放った。基節骨が彼の頬にめり込む。椅子を巻き込みながら倒れるエレンに名前は右足を振り上げた。かかと落としがエレンの首に炸裂する。先程も首から落ちたはず。人間であればとうに死んでいるはずだが、ワーウルフの防御力は高い。小さく呻くエレンに名前はもう一度足を振り上げた。

「エレン!!!」

入り口から聞こえてきた女の悲痛な声に名前の足が止まる。入り口を向く名前にエレンの名を呼んだ女は肩からのタックルを仕掛けた。思わぬ方向からの攻撃、しかもエレンより格段に強力な攻撃に名前は飛ばされる。椅子に足を取られ半回転しながら倒れた名前は首を打ち付け気絶した。

「エレン、酷い出血。大丈夫?」
「お前なんでここにいるんだよ。薬草摘みに行ったんじゃないのかよ」
「教会が騒がしいから様子を見に来た。あの女はなに?」
「いてててて。この街の様子を見に来たハンターらしい」

ミカサの目が釣り上がる。トドメを刺そうと立ち上がるミカサをエレンは慌てて止めた。どうして止められているのかわからないミカサはエレンを振り払おうとする。

「殺しちゃダメだ。仇討ちに来られたら面倒だろ。このまま街の外に放り出しておこう」

納得が行かない様子のミカサだったが、エレンに再度強く言われ、しぶしぶと頷いた。エレンの前に膝をつき、額の止血をする。空気が悪い。埃が舞う教会にエレンは眉を寄せた。

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