04


名前も数日に渡ってこの街を調べたが、どこかに吸血鬼が潜伏しているようには思えなかった。
やはりガセだったのか。無駄足というより、久しぶりの休暇を貰ったような感想を抱いた名前は昼間で惰眠を貪り、夜は酒場で集まったハンター達と情報交換をして時間を消費していた。
初日に知り合ったマルコとジャンはどうやら隣街の住人らしく、この街の噂をきいてやってきたようだった。そして彼らも噂をガセと判断し、自らの街へ戻っていた。

「名前、本当にクロルバにいくの?」
「ええ。私の村を襲った奴らについて知っている人がいるって聞いて、行かないわけにはいかないですから」
「よければ私達も一緒に行くわ」

名前に話しかけているペトラは本当に心配そうだった。名前に充てられた手紙にはクロスのマークが押されている。つまり、教会関係者が出した手紙だ。異端を嫌う教会は異端を対峙する狩人を間接的に援助している。名前も言葉に出しはしなかったが、断れるものではない。遠回しな依頼だ。

「貴方が一人で行動するのが好きなのも知っているけれど、もしよかったら私達の班に入って欲しいの」
「……」
「また会った時に答えを頂戴ね。私達、今からこの街を出るわ」
「どこに行くんですか?」
「トロストの南へ行くわ。久しぶりに実家に戻るの。父が顔を見せろってうるさくて」

ペトラはニコリと笑った。ペトラは毎月父親に手紙を出しているようだ。そろそろ顔を見せるらしい。嫁ぎ遅れることを心配しているみたいと言ったペトラは複雑そうな顔を見せた。元々結婚など毛頭ない名前はそんな悩むことなのかと思った。女二人の会話にしては色気がない。

「ペトラさんはてっきりあの班の誰かと夫婦なのかと思っていました」
「はあ!?夫がハンターなんて絶対嫌よ」
「えっ、どうしてですか?」
「家に戻ってこないしいつ死ぬかわからないし……」
「確かにそうですね。子供を抱いて待つのは辛そうです」

名前もちっぽけな想像力でその様子を想像した。想像したが、やはりよくわからない。やれやれと頭を振る名前に仕方ない子だとペトラは頭を軽く叩いた。

「名前はもう少し女の子らしく振る舞ってもいいと思うよ」
「スカートは履きますよ」
「お化粧もしなさい。少しは世界が変わるわよ。綺麗な髪色なんだからちゃんと手入れして」
「はあ」

気の抜けた返事をする名前にペトラも気の抜けた息を吐いた。


■ ■ ■


ペトラ達が街を出た翌日、名前もクロレバへと向かった。クロスと聖母の押印の手紙を行く先々の街の教会に見せると無償で食料や宿泊場所、果てには馬車まで手配してくれた。馬車まで用意してくれるのは初めてのことなので名前は面食らった。街を渡り歩くこと二週間、街と街の間隔が広くなったな、と実感するようになった頃、名前はようやくクロルバの城跡を目にした。

「ここで、結構です」

馬車の騎手は何も言わずに一礼し、去っていった。名前は街の入り口の門の鍵を見た。長いこと開門されていないようで錆び付いている。名前は腰につけたサイドポーチのなかから刃渡り十センチほどのナイフを取り出した。鞘がついた刃の部分を握り、柄の部分を錠へと振り下ろす。鈍い音がした。腐食が進んだ金属は一発で崩壊した。

「さて、結局宛先人はだれなんでしょう」

教会の人間はみなわからないと言っていた。そしてこの街の中に住人は居なさそうだ。門を開け、街の中に入る。街は暗澹としていた。燃やされた家屋の残骸が伸び放題になった草の合間に見える。城の周りに至っては立派な森になっていた。名前は街を周ることにした。寝泊まりできる安全な場所を探す必要がある。

「……廃屋の教会?」

屋根があるところであればどこでもいいと名前が結論付けたとき、その教会は現れた。城壁を囲む森に半分飲まれかけているが、屋根もあるし戸締まりもできそうだ。レンガが焦げているがそれは些細な問題だ。入り口を開け、数歩足を踏み入れた名前はうっと声をつまらせた。

「骸骨と同衾はちょっと嫌だなあ」

火が放たれた街で逃げ惑う人々は最後の望をかけて教会に逃げ込んだのだろう。聖壇に重なるように白骨死体が散らばっていた。焦げ付いた内装と合わさって不気味である。名前は引き攣った顔のまま後ずさった。その背中がもさっとした何かにぶつかる。

「お?大丈夫かあんた」
「うっ」
「此処の街はあまり人間に優しくないから早く出たほうがいいぞ」

白骨死体に硬直した名前は同じように教会を覗きこんでいるものに気が付かなかった。背が触れたと感じた感覚は気のせいだったようで名前の後ろに居たのは洋服を着たただの青年だった。

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