17


リヴァイのオフィスに行った一昨日、リヴァイは名前に策があるからお前からは何もアクションを起こすなと言っていた。だが、向こうから接触してきた場合はどうしたらよかったのだろうか。ミルクティーを啜りながら名前は向かいに座る憔悴した様子の男を見た。

「俺の名前はライナーだ。ライナー・ブラウンという」
「はあ……あの、ご用件というのは?」
「その、あんたは前に俺に、あの交差点で死んだ女の話をしたよな……」
「したようなしていないような…すみません、酔っていたので」
「頼む。俺を助けてくれ。このままじゃ祟り殺されちまう」

名前は目を瞬かせた。ライナーは祟られているというが、名前にはライナーに取り憑いているような霊は見えない。その旨を伝えると少し救われたようにライナーは顔を上げた。

「何があったんですか?」
「店のブレーカーがいきなり落ちたり、無言電話がかかってきたり、電波が急に悪くなったり……あとは店の前に割れた植木鉢が落ちていたり……店の閉めたはずの鍵があいていたりだな」
「……」

それって心霊現象なのだろうか。少なくとも植木鉢の件には心あたりがある。だが、それはライナーを対象に起きたことではない。偶然不可思議なことが起こり、それによって良心が刺激されたのだろうか。リアクションを起こさない名前にライナーは縋るような目を向けた。

「あんた除霊はできないのか?」
「いや、除霊以前に、それって本当に幽霊の仕業なんですか?」
「ああ、そうに決まっている」
「どうして断言できるんですか?」

周りには客も大勢いる。この場で殴りかかってきたりはしないだろうと名前はたかを括った。案の定ライナーは黙る。それを名前はレベッカを殺した証拠として受け取った。

「……そうだな、まだ幽霊の仕業とは限らないよな……。でも、俺は気になって気になって夜も眠れないんだ。頼む。一緒に店を見てくれないか……?なにもいなきゃなにもいないでいいんだ。もし、居た場合は対処法を教えてくれ……本当に頼む………礼はする…」

これはチャンスではないかと思う反面、ライナーと二人っきりで店に行くのは危険すぎる。名前はスマートフォンに手を伸ばした。ドーナツの形をした防犯ブザーを握り、電話帳を開く。

「この後のアルバイト、いつもお店に一緒に来ていたひとのお手伝いをすることになっていたので、ちょっとその断りの電話を入れてきます」
「あ、あぁ」

名前は席から離れ、店の自動ドアの側でリヴァイに電話をかける。プッシュ音の後に発信音が鳴る。はやく、はやくと急かす名前の想いを受け取るようにリヴァイは電話にでてくれた。

「もしもし?」
「あの、店の主人と今いるんですけど……」
「あぁ?!お前何してんだ?!」
「え、駅でその捕まえられて……今ウォール駅の中のカフェにいるんです。で、なんか心霊現象に悩まされているとかで、店まで来てくれないかって」
「絶対に行くな。そいつの店の現象は俺が仕掛けたことだ。お前は関わるな」
「でも……」
「でも、じゃねえ。お前……相手はお前の友達を殺している可能性が高いんだぞ?そんな男を信じてほいほい付いていこうとしてんじゃねェよ。いいか、絶対に行くなよ」
「り、リヴァイさん!依頼です。今からウォール駅に来て私と一緒にあのバーに行って下さい!言い値を払いますから!えっと、なんでもします……」

電話越しにリヴァイが大きなため息を付いたのが聞こえた。名前は首をすくめる。大迷惑をかけているのはわかっている。だが、これはチャンスなのだ。リヴァイの応答を待つ。

「十分で行く。絶対に動くなよ。なんやかんやいって引き止めとけ」
「はい!南口のロゴがコーヒー豆でできているお店でお待ちしてます」
「ああ。俺が一緒にいくことを悟られるなよ。偶然会ったように振る舞え」
「頑張ります」

ほっと一息つき、名前はライナーの待つ席へと戻った。アルバイトの方は大丈夫でした、と断りを入れ、もっと詳しい話をしてくれるよう頼む。その現象がどういった時に起きているかを聞くと時間帯は関係なしに起こるらしい。ライナーは軽いノイローゼになっているようだ。リヴァイさんやりすぎじゃないですかと心の中で思う。

「幽霊の姿は見ていないのですか?」
「ああ、見たことはない」
「うーん……」
「俺には見えなくてもあんたには見えるかもしれないだろ?見に来てくれるか……?」
「私、別に霊能力者でもなんでもないんです。見えるだけで除霊とかもできないし……むしろ引き寄せちゃうかもしれませんよ」

名前が乗り気ではないことをライナーもわかっているのだろう。必死に頼むライナーに名前はふと違和感を感じた。ライナーからすれば死体がある店内に名前を招くと困ることになるはずだ。名前の胸が不信感と違和感で満たされかけたとき、彼女たちが座るテーブルの横の硝子がノックされた。

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