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レベッカの働いていたバーで飲んでから一週間後、リヴァイは名前とウォール町で待ち合わせをしていた。喫茶店で行う家庭教師の後、名前はリヴァイと待ち合わせる五分前には着いていたが、リヴァイはさらにその前に到着していた。真面目な人なのだろう。

「お前……その怪我どうした?」
「ちょっと転んじゃいまして」
「転んだってレベルの怪我じゃないだろう。交通事故にあったのかと思ったぞ」
「階段から落ちただけ、です」

名前はへらりと笑うが、リヴァイはその姿が痛々しく写る。名前の両手首にはテーピングが施されていて、腕には湿布が貼られている。顔も打ったのか、化粧で隠し切れない痣が頬に切り傷が口元にある。ロングスカートを履いているが、きっとその中も湿布と包帯で覆われているのだろう。

「……とりあえずどこかゆっくり喋られるところに移動しよう。軽く飯でもと思ったが、口は傷まないのか?」
「ちょっと痛いですけど、軽くなら大丈夫です。……チーズ入りハンバーグを所望します」
「ああ、調度良かった。俺も肉が食いたい気分だったんだ」

リヴァイは自身のスマートフォンで駅から近い洋食屋を探した。駅ビルの中に有名な店がある。名前をその店に連れて行くと焦ったような顔を見せた。てっきりファミレスに行くのかと思っていた等々呟く。言い分を聞くに給料日前だかららしい。

「協力費だ」
「神様ですか」

真面目な顔で拝みだしそうな名前の腕を掴み、店へ入る。打ち付けたところをちょうど掴まれたせいで名前の口からは小さな悲鳴が漏れた。リヴァイはすぐに手を離す。この怪我のことも言及しないとな、とリヴァイは決めた。リヴァイは早速ワインを頼む。名前は炭酸水を頼んだ。

「で、まずはその怪我だ。詳しく教えろ」
「雨の日に駅の階段から落ちただけですよ。私のうっかりミスです」
「病院には行ったのか?」
「はい。幸い頭も強く打ったりはしていませんし、骨折等もありませんから」
「ならいいが……本当にお前一人で落ちただけなんだな」
「……まあ」
「何かの事件に巻き込まれていないなら、よかった」

ホイルに包まれたハンバーグが二つ運ばれてきた。名前は嬉々としてナイフとフォークを構える。父親は料理下手なうえに仕事が忙しいせいでほぼ食事は外食か面倒な時には抜いているらしい。リヴァイはそれを聞いて憐憫の目を向けはしなかった。

「自炊しろ」
「たまにします。でも毎日はちょっと面倒じゃないですか。一人で食べるのも味気ないですし」
「ジャンだったか、あいつを呼べばいいだろう」
「たまに呼びます。そのときだけ作っています」
「女子力が足りねぇな」

リヴァイの口から女子力というワードが飛び出してくるとは思わなかった名前は飲んでいた炭酸水を吹きそうになった。価値観の押し付けは良くないですよ、と言いながらハンバーグを口に含む。おいしい。

「レベッカの件はなにか分かりましたか?」
「彼女が使っていたSNSを新しく割り出した。具体的に言えばツイッターの別アカウントだな」
「ツイッター?」
「あれだ、裏アカウントって奴だ。鍵付きのアカウントが出てきた」
「へえ!よく見つけられましたね」
「俺の仲間にそういうのが得意な奴がいるんだ」

レベッカの裏アカウントなど知らなかった。そもそもレベッカは通常のアカウントでもそこまで多く呟くことはない。リヴァイはレベッカの裏アカウントのツイートをスクリーンショットで取ったものを名前に見せた。

「あまり見たいものでもないだろうが、一応見せておく」
「……」
「固有名詞が出ていないから、なんとも言えないが、気を付けてみろよ。人間こういうものを全て自分に対しての言葉だと思い込むことが多い」

リヴァイは名前へ渡したスマートデバイスの画面がスクロールされていくのを見ながら名前の顔色も伺う。そこに書かれているのは不平不満が殆どである。全く関係のないリヴァイでさえ見ていて気分の良いものではない。だが、二十歳前後の心の中などこのようなものだろう。一通り見終わった名前はリヴァイへスマートデバイスを返した。

「マルコとジャンに軽く相談したんです。レベッカがアルバイト先で私と同じような格好をしていたようだけどなぜだろうって」
「あいつらはなんて言っていた?」
「……レベッカは私を羨んでいたんだろうっていっていました」
「俺もそう考えた。レベッカが高校の同窓会でお前に対しての……言い方は悪いが僻み、恨み事を漏らしていたそうだ」

名前はテーブルへ肘をついて顎を手に乗せた。

「リヴァイさん、友情ってなんなんでしょうね。いや、わかっているんですよ。人間だれしも行動と感情が伴っているとは限らないし、感情もライクとディスライクの二つに別れるほど単純じゃないって」
「十分じゃねェか。それは友情だけじゃなくてどの人間関係でもそうだ。探偵業やっているとよく分かる。浮気調査なんて正反する感情のもつれ合いになることが多いしな」
「なんだか、テンション下がっちゃいました」

炭酸水の気泡を眺める名前はくらい目をしていた。やはり、巻き込んだのは失敗だったか。まだ人間の闇を直接つきつけるのは早かった。リヴァイは苦い後悔を赤ワインとともに流し込んだ。

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