07


体育館の角から姿を現したリヴァイにジャンは罰の悪そうな顔をしたが名前は特に顔色を変えなかった。ジャンが外に出た後、リヴァイも熱気にやられ、自販機で何かを買おうと思って体育館の中から出てきたのだ。自販機にコインを投入しようとしたそのときにジャンと名前の声が聞こえてきた。後をつけたわけではなく、偶然にも聞いてしまったのだ。

「俺に話があるようだが…俺も名前よ。お前に話がある」
「鞄をとってきます。ここじゃなんですから」

名前の手首を思わずジャンは掴んだ。それをそっと名前
は解く。軽く頷いた名前は小走りで建物の中へと入っていった。アルミンがそれを追う。残されたリヴァイとジャンは無言のまま待っていた。ジャンがなにかいいたそうな雰囲気であることをリヴァイは察していたが、それに助け舟を出す義理はなかった。気まずい沈黙がつづいていたが、名前の到着によりそれは破られた。

「駅前でいいか?なるべく人がいないところの方がいいかもしれない」
「喫茶店でよければ落ち着いたところがあります」
「そこにしよう。案内してくれ」

ジャンは名前を心配そうに見送った。後ろ髪を引かれる思いはあるものの、名前ももう子供じゃない。大丈夫だろうと思い、メンバーが待つ体育館へと戻った。浮かない顔のジャンにマルコは苦笑いを浮かべて見せた。いつの間にかコートの外にいたリヴァイの姿は消え、名前も鞄を持って早退した。

「同じ秘密を持っていると絆は強くなるっていうよね」
「あ?」
「なんでもないよ」

マルコが華麗に決めたレイアップシュートは小さな放物線を描いてゴールに収まった。


■ ■ ■


名前が案内した喫茶店は、以前ジャンと共に来たところだった。あの時と同じようにアイスココアを名前頼み、リヴァイはカプチーノを頼んだ。リーフが描かれたカプチーノにリヴァイは早速口をつける。模様が歪んだ。

「あの、お話ってなんでしょうか」
「ああ、レベッカのバイト先について調べていたんだが、見つかった」
「…よく見つかりましたね」
「仕事だからな」

名前は純粋に驚いた。ウォール駅のバーからレベッカのバイト先、しかも情報がほとんどないなかでよく見つけたものだ。リヴァイは平然としている。続きを促す名前にリヴァイは鞄の中から写真と店の名刺を取り出した。それをテーブルの上に出す。

「これがレベッカのバイト先だ。で、これがレベッカの店用の名刺だ」
「えっ……?この名前…」
「お前の名前だ」

リヴァイが机の上に置いた名刺は白い紙にセリフ体で名前が書かれているだけのシンプルな名刺だった。サイン体で書かれている名前が問題なのだ。そこには名前と書かれていた。混乱する名前にリヴァイは手帳を開いた。

「水商売では源氏名を使うのは知っているか?」
「お店で使う仮名のことですよね」
「店の主人に聞いたところ、レベッカがその名前を指定してきたらしい…何か心当たりはあるか?」
「心当たりと言われましても」

レベッカが源氏名で自分の名前を使った理由なんて知るわけがない。たまたま思いついた名前が自分の名前だったのだろうか。リヴァイは名前の様子を伺いながら手帳から二枚の写真を取り出して見せた。

「これは俺がレベッカの母親から預かった写真だ。聞き込みもこれでやった。で、こっちが店の主人から預かったものだ」
「………」

名前の目がぴくりと動いた。動揺を必死に隠そうとしているようだが、リヴァイはそれを許さなかった。店から借りたレベッカの写真を指でトントンと叩く。言葉で尋問されることはなくても、名前にとってリヴァイの目とリヴァイの指のリズムは十分な尋問だった。レベッカの全身写真を見、名前はリヴァイの目を見つめ返した。

「その写真の洋服は、私と同じものだと思います」
「お揃いで買ったものか?」
「いいえ。一緒に買ったこともありませんし、レベッカがその服を私の前で着たこともありません」

リヴァイは腕を組む。バーで働いている時のレベッカは名前の名前を名乗り、名前と同じ洋服に身を包んでいたということになる。

「リヴァイさん、私をそのバーに案内して下さい」
「と、いうかこれからはお前の協力を仰ぎたい」
「ええ、是非」

名前がレベッカの写真に手をのばす。静電気のような刺激が名前の指を伝って彼女の脳にレベッカの残層を写しだした。名前の中に流れ込んでくるレベッカのビジョンはひどく曖昧なものだった。名前の胸のなかには寂しさと苛立ちが残る。これがレベッカの持っていた感情なのだろうか。レベッカの写真に触れて一瞬動きが止まった名前だったが、リヴァイがそれに気がつくことはなかった。

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