04

 
レベッカがバイトをしていたバーがあるウォール駅はリヴァイも通勤途中に通る駅だ。大学へ聞き込みに行った三日後、リヴァイはウォール駅の中央改札でつい最近見た顔を見つけた。大学の帰りなのか、名前はレジュメらしき書類を読みながら改札を抜けて行った。この人混みをよくも器用によけるものだと思った。今は勤務時間ではない。むしろ今日はもう自宅に帰る予定だった。リヴァイは駅の天井から下がる時計を睨む。

「残業だな」

名前はまだ情報を持っているだろう。それを聞きたかったリヴァイは人混みに埋まりそうな名前を追った。話しかけはしない。少し様子を見ようと思ったのだ。夕刻ラッシュのピークは過ぎたもののまだまだ人は多く、まっすぐ歩くのは困難だ。名前が着ている黒と白のボーダーのシャツを見失わぬようリヴァイは目を凝らして歩いた。彼女は駅を出て、ベンチに向かって手を振る。

「待たせちゃったね。じゃあ、行こっか」
「はい」

彼女を待っていたのは小学生らしき少女だった。背中には大手中学受験対策塾のリュックサックを背負っている。二人は駅からほど近いカフェに入った。リヴァイは窓の外から二人の様子を伺がった。席に座った少女がリュックサックの中からテキストを取り出し、名前は筆箱を出している。どうやら、この喫茶店で勉強を見るらしい。怪しまれないようにとリヴァイは喫茶店から離れ、しばらく街をぶらつくことにした。

繁華街を三十分ほどぶらつきながらリヴァイの頭の中ではレベッカのバイト先についてなにか手がかりを見落としていないか情報を整理していた。母親は夜勤の多いナースのため、娘が何時に帰宅しているのかわからないという。親友はバーで働いていたと言った。リヴァイの足が繁華街の途中で止まる。私服可のバー。バーテンダーが女性中心なショットバーの多くは私服可だ。リヴァイは踵を返し、喫茶店への道を戻った。

「来週のテスト結果持って来てね」

諸事情により自宅で勉強を見られない教え子にそう言った名前はわずかに残っていたミルクティーをストローで吸い上げ、帰る支度をした。九十分の家庭教師。時給は千五百円。雑貨でも見て帰ろうかと、喫茶店の前で生徒と別れた名前はガードレールに凭れかかってこちらを見ているリヴァイと目があってしまった。目を逸らすわけにもいかず、名前は軽く会釈をする。そしてそのまま街へ向かおうとする名前をリヴァイは引き止めた。

「いきなりで悪いが、今から時間はないか?少しでいい。聞きたいことがある」
「少しでいいのならば……」
「悪い。何か奢ろう」

名前はすぐ側にある先ほどよりワンランク上の喫茶店を指差した。リヴァイはそれを了承する。SNSでも話題の新作を遠慮なく頼んだ名前はコーヒーを啜るリヴァイが話し始めるのを待った。

「レベッカがよくタクシーを使っていたという話は聞かないか?」
「タクシー?よくは聞きませんが、たまにレベッカはタクシーにのって帰宅することがありました。飲み会の後とかにですけど。財布のなかにタクシーの領収書が入っているのを見たことがあります」
「携帯を二つ持っているということはないか?」
「いえ?レベッカのスマートフォンは一つの筈ですよ」
「そうか……」
「レベッカの件でなにかわかったのですか?」

名前はリヴァイに尋ねる。リヴァイはいや、と言葉を濁した。

「家庭内でトラブルは見当たらない。大学でも目立ったトラブルはなかったようだ。ならバイト先でなにかあるんじゃないかと思ったのだが、バイト先が見当たらない」
「………」
「彼女は風俗店でアルバイトをしていたんじゃないかと疑っている」
「え?」
「ガールズバーって聞いたことあるだろ。基本的にそこは私服可だ」

まあ、と名前は頷く。だが、名前の中でレベッカと風俗店がどうしても結びつかなかった。レベッカは大人しい女の子だ。キャバクラで働く女の子達とは雰囲気が根本的に違うし、なによりお金に困っているようには見えない。

「私にはしっくりきません。だってレベッカはマニュキュアさえ凝ったことをしていなかったのに……」
「あくまで可能性の一つだ。あとはこっちで探って見る」
「……」
「他に知っていることがあるなら教えてくれ。なんでもいい」

若い女性が行方不明になる場合、多くは友人の家や恋人の家にいることが多い。漫画喫茶に止まっているケースもあるが、ウォール街の漫画喫茶店は聞き込みを一通りしてある。もしかしたら名前が匿っているのかもしれない。リヴァイは辛抱強く名前の言葉を待った。だが、その日、名前がリヴァイに対して口を割る事はなかった。

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